(嘘…なんで…)
「餓鬼にはカンケーねぇ!消えろ!」
「餓鬼とはずいぶんだな。俺、その子の学校の教師なんだけど?未成年保護条例違反で警察に突き出してもいいんだけどどうする?」
「先生!!」
私は男の手から逃れて先生の胸に飛び込んだ。
男達は舌打ちをして
「うぜぇ、クソ餓鬼共!」
と捨て台詞を吐いて立ち去っていった。
「もう大丈夫だ」
先生が大きな掌で優しく私の頭を撫でる。
「せんせ…こわ、かった…」
震える声で言うと、先生は私の背中に両腕を回し抱き締めた。
息が苦しいほど強く力を込めて。
長い長い時間先生はそうして私を抱き締めてくれた。
やがて肩の震えが治まると、花壇の縁に私を座らせ、隣に先生も腰を下ろす。
それから自分のブルゾンを脱いで私の肩に掛けてくれた。
ほんのり夏の青葉の向こうに煌めく陽を思わせる香りに包まれる。
「南条、こんな時間にこんなとこで何やってんだ?」
「…先生に…逢いたくて…来たの」
先生が溜め息を吐く。
「親御さんは?」
私は首を振る。
「家出?」
「家出じゃないもん。…ストライキだもん」
私のしょうもない言い訳に先生がふっと笑う。
「同じじゃん」
「同じじゃないもん。要求を飲むまで帰らないんだから!」
「向こうにタクシー乗り場があるから。今ならまだ車があるだろうから行こう」
先生がすっと立ち上がる。
けど私は…
「南条?」
「イヤ!帰らない!」
私は座り込んだまま先生から顔を背けた。
「…じゃあ、とにかく家の方に電話だけでもしなさい」
「イヤ!連れ戻されるだけだもん!」
「南条!」
「……」
「心配かけるな!」
私は唇を噛む。
「心配だと思うくらいなら最初から娘の話を聞けばいいのよ!」
「そうじゃない!
俺に、だ!!」
「!!」



