光の中を抜けると、二人、闇に包まれた。

 皆私たちが離れたことに気付かず、花火にはしゃいでいる。
 その声が次第に遠くなるに連れ、先生と私、ふたりきりになってしまったことを余計に意識させられる。


 不意に先生が沈んだ声で言う。


「ごめんな。やっぱ南条に手伝わせなきゃ良かった」


 先生の申し訳なさそうな表情に心が痛む。


「ううん、私が勝手にやったから」

「それを監督するのが俺の仕事なのになぁ…」


 建物脇の目立たないところにある流し場で、先生が蛇口を捻る。


 先生はもう一度

「ごめんな…」

と悲しそうな声で言った。


(そんなこと…言わないで?)


 だってすごく楽しかったんだもん…
 すごく楽しそうな先生と一緒にいられて嬉しかったんだもん…

 そんなこと、言わないでよ…


 私の右手を流水に浸そうと、先生が手を握る力を弱める。

 その拍子に、私は先生の手からするりと逃れた。


「あ…」


 そしてその逃れた右手で先生の左腕を掴む。


「南、条?」


 私は少しだけ背伸びして、先生の端正な横顔に囁いた。



「そんなこと気にしないで。


不可抗力なんてよくあることじゃん。


気にしてたらこの仕事やってけないよ?」



「え…」


 驚いて先生は私を見ている。


 至近距離で視線が交わる。

 もう少しだけ背伸びすれば唇も触れてしまいそうな距離。


「南条…?」


 幽かに掠れた先生の声に少し緊張感を感じる。


 困ってる?

 困るかな?

 まぁ困るよね…


 困らせちゃ、いけないよね。


「ね?」

 私は笑って見せ、何もなかったように伸び上がっていた踵を地面に着ける。


 すると突然、先生が右手で私の左肩を掴み、引き寄せた。