翌週の月曜日のこと。


「あのね、舞奈。昨日の夜、植物園のイルミネーション行ってきたよ」


 教室の窓際の席で揺花とお弁当を食べていると、揺花が言った。


『植物園のイルミネーション』というのは、私たちの住む県の隣県にある私設の植物園のこと。
毎年この時期に植物園全体を何百万個というイルミネーションで飾るのでこの辺りでは有名なスポットだ。


「あー行ったんだ!いいなぁ!どうだった?綺麗だった?」

「うん!凄い綺麗だった。
木も池も全部キラキラだしね、光のトンネルとか。あと、プロジェクションマッピングも凄く良かったよ」

「うわー!行ってみたい!私行ったことないんだー」

「うんうん。行ってみなよ。オススメだよ!」

「ロマンチックなんだろうなー」

「そうねぇ…まぁ私も一緒に行ったのがお父さんだからなー。素敵な男の人と行ったりしたらロマンチックかもねぇ」


 何か思い浮かべるように天井を仰ぐ揺花に囁く。


「宇都宮は?」

「やだっ!もー!ちょっと!ないッ!!ないからッ!!」


 真っ赤に頬を染めた揺花に二の腕をばしっと叩かれる。


「痛いよ」

「ごめん…でも舞奈が変なこと言うから悪いんだからね!」

「あーはいはい」


(『素敵な男の人』かぁ…)


 先生と行ったらきっと凄く素敵なんだろうなぁ。


 でもイルミネーションは夜だし…
 高校生が夜にそんな遠くまで外出とか出来るわけない。両親はもちろん、先生だって認めてくれないだろう。


(難しいよね…)


 お弁当箱からミニトマトを摘まんで口に放り込む。


(来年なら…一緒に行けるかな?)


 口の中でぷちっとミニトマトが弾ける。
 冬のミニトマトはちょっぴり酸っぱい味がした。

       *   *   *