「ねぇ舞奈」


 清瀬くんが学校まで迎えに来た帰り道。


「何?」

「毎日迎えに来ていい?」

「えぇっ!ダメだよ!」

「なんで?会いたいじゃん?」

「そうじゃなくて!毎日あんなところに立ってたら、生徒指導の先生とかに見つかったら怒られちゃうよ」

「えー、俺気にしないけど?」

「私がするの!」


 清瀬くんは唇を尖らせる。

「しゃーねーな。じゃ駅で待ってっから」

「…うん」


 清瀬くんが繋いだ手を握り直した。
 指と指の間に自分の指を差し入れ、掌をしっかりと包み込んで握り締める。

『恋人繋ぎ』って言うんだよね?
 この繋ぎ方、なんだか落ち着かない。


「それに、出来れば連絡して。今日だって私が帰るの早かったりしたら行き違いになってたよ?」

「なんねぇよ?だって俺、2時頃からあそこにいたし」

「え?授業なかったの?」

「午後の授業さぼった」

「えぇっ!」

「授業よりかお前に会える方がいいに決まってんじゃん?」


 校門の前に4時間も…

(岩瀬やヤマセンに見つかんなくてよかったよ…)


「来週さ、お前誕生日だよな?」


 駅へと並んで歩きながら清瀬くんが言った。


「うん」

「一緒に祝お」

「えっ!」

「えっ!じゃねぇよ。嫌なのか?」

「…ううん」

「じゃ決まり」



(誕生日か…)


 一緒に祝ったりしたら…


(別れにくくなるな…)


 清瀬くんとの思い出はあんまり増やさない方がいい。


 私の気持ちを知ってか知らずか、清瀬くんは私の顔を覗き込んで

「楽しみにしてる」

といつものように笑った。

       *   *   *