街灯の灯りが滲んで見える。


「…幸せじゃなくて、いいの。

 ただ好きでいたいの…先生のこと」


「先生?」


 清瀬くんが訝しげに聞き返す。


「だったら尚のこと。止めとけよ、お前のこと好きだって言えない奴なんて」


 清瀬くんの言葉に力がこもる。


「俺にしとけよ」

「…無理だよ」

「2度も俺を傷付ける?」

「……」

「ごめん。でも、本気だから」


 清瀬くんがそっと私から離れる。

 そして今度は私の脇にしゃがみ込み、ブランコの鎖を握る私の手に彼の手を重ねて俯く私を覗き込んだ。

 清瀬くんのチャラい第一印象から一転、真剣な瞳に戸惑ってしまう。


「そんな顔すんな」

「……」


 清瀬くんは溜め息を吐く。
 それから私から視線を離すと、私の手の甲に重ねた掌の力をきゅっと強めて、少しの間何か考えるように遠くを見つめていた。

 やがて掌をそっと離して立ち上がる。


「一週間。俺と付き合ってよ?好きな奴のこと、忘れさせてやる。

 俺、本気だよ?だから、考えといて」


清瀬くんが私に手を差し出す。

「行こう」


 私は清瀬くんの手は取らず立ち上がる。

 清瀬くんはそれ以上何も言わず家の前まで送ってくれた。



 私は家に帰るとクローゼットの奥から1冊のアルバムを探し出す。


 小学校の卒業アルバム。

 私と同じページに「清瀬優翔」くんがいた。


 小学生にしては少し大人っぽい甘いマスクの彼。

 そう言えば友達の中にも清瀬くんが好きだと言う子が何人もいた。
 ようやく幽かな記憶が蘇る。

 昔から長身で、バスケやサッカーが得意で、女の子にモテて、男の子からも人気があって。

 でも私はあんまり話したこともなかった彼。


 そう言えば天体観測会の夜、


「舞奈、俺とずっと一緒に…星見てねぇ?」


と言われた気がする。

 遠い記憶。数少ない彼との会話。

 もしかしてあれが告白、だったのかな?


 きっと子供の私は気付かずに

「無理。家帰んなきゃだから」

なんて返したんだろう。


「…無理だよ」


 私はまたアルバムをクローゼットの奥にしまい込んだ。

       *   *   *