「あ、それならここにありますよ。」
 「??」

 ずっと持ち歩いていた大きな鞄を開くと、そこにはキノシタイチの絵本に出でくるキャスターのグッツが沢山入っていた。バックの中身を見て、しずくは驚き目を丸くした。
 
 「え、キノシタ先生のグッツがいっぱい!これ、どうしたの?まさか、、、。」
 「買ってきたわけじゃないですよ。今日のサイン会の報酬です。しずくさんにプレゼントです。」
 「そんな、、、白くんが頑張ってお仕事したのに、私が貰うわけにはいかないよ。」
 「僕は30冊サインしただけなんで、大丈夫です。それに絵本を買ってくれた人が沢山いれば、僕の報酬になりますよ。」
 白は「しずくさん、今までも、そして今日も買ってくれましたし。」と、言って大きな袋をしずくに渡した。
 「じゃあ、遠慮なくいただくね。白くん、ありがとう。とっても嬉しい!」
 
 グッツが全種類が入ったバックを抱きかかえながら、しずくは笑顔でお礼を伝えた。
 
 サイン会に参加した報酬としては、このグッツの量は多めの代金だった。だが、白はありがた迷惑なサプライズを貰った仕返しとして、キノシタの財布からグッツを購入して貰っていたのだ。
 もちろん、サイン会の仕事をしての報酬で受け取ったので、やましいことは何もない。だが、しずくには詳しいことは、もちろん内緒にしておいた。

 キノシタは「あー、、、飲みに行くお金が、、、。」と、嘆いていたのは、白だけの秘密だった。
 
 
 白としずくのふたりは、充分に大学祭を楽しんだので、大学から違う場所へと移動しようとしていた。もちろん、手を繋いだまま門まで歩いてる途中だった。

 「白先輩!それと、お姉さん!」

 目の前に現れたのは、サイン会の会場にいたピンクの髪が特徴の心花だった。
 心花は2人を見つけると駆け寄り、「会えてよかったです!」と嬉しそうにしていた。
 
 「心花と何かあったのですか?」

 心花としずくが顔見知りのような反応をしていたため、白は驚いたが「サイン会で並んでるとき、お話ししたの。」と、しずくは簡単に(少しだけ黙っていた部分もあるが)話しをすると、納得していた。

 「どうしたんだ?心花。」
 「キノシタ先生から頼まれて。これ、彼女さんにどうぞって。」
 「えっと、、、ありがとう。」

 心花は、しずくにキノシタ先生の絵本を渡した。中を見ると、サインと共に「白くんをよろしく!」と書いてある。それを隣から覗き込んでいた白は、苦笑していた。
 だが、心花は何故白の彼女が私だとわかったのだろうかと、疑問だった。それは、白も同じだったようで、「どうしてわかったんだ?」と心花に聞いた。

 「んー、サイン会で白先輩の知り合いだってわかったときに、勘でなんとなく。それに、これを見ちゃったら、、、ね。」

 そういって、心花は2人が手を繋いでいるところに視線を合わせた。確かに今の状態を見れば、恋人同士にしか見えないだろう。しずくは、今日知り合ったばかりの人だとしても、少しだけ恥ずかしくなった。こうやって、2人で出歩いている時にお互いの知り合いに会うことは、まだほとんどなかったので、どうやって過ごせばいいのか、わからずにいた。

 「デートの邪魔してすみません。残念だけど、白先輩の事、すこーしだけ応援してますね。」
 「え、、、?」
 「心花、、、。」

 白がため息をつきながら呆れるような声を出した。その横では、固まっているしずくがいたが、それを気にせずに心花は、悪戯っ子のような笑みを見せて走り去っていった。

 「えっと、、、あれは、、。」
 「やっぱり白くんは、モテるんだ、、、。」
 「そんな事ないですよ!しずくさんだって、モテるじゃないですかー!」
 「え、モテないよ!」
 「これ、貰ったんですよね?」

 ジャケットのポケットから、白はあの紙を取り出した。白が出したものを見た瞬間に、しずくはすぐにそれが何かを理解して、どう説明しようかと悩んでしまった。

 「それはそのー、、、。」
 「青葉城なんてアドレスにしてるのは、青葉しか考えられませんね、、、。」
 「それは連絡先を教えて貰っただけで、、、。交換してないよ!」

 白としずくは、お互いに焦りながらも潔白の証明をし合ったのだった。
 お互いに納得するのには、夕焼けから夜になるまでの時間がかかったのだった。