「持ってるそれ、俺にちょうだい」 だけど、お兄ちゃんの声は想像以上に優しい声だった。 怒りなんて含んでいない、いつもの優しいお兄ちゃんだ。 「あの…あたし……」 怖いわけじゃない。 それなのに、自然と震えた声。 何度も頬を伝う涙。 どろどろしたよく分からない感情に体中を支配されているような感覚だった。 「大丈夫だから、ちょっと待ってて」 あたしからカッターを受け取ると、お兄ちゃんは部屋を出て行った。