あの日出逢ったのが、颯斗でよかった。

颯斗がいてくれなかったら、きっとあの頃と何も変わらなかった。

何気ない毎日に価値すら感じない。だけど、たった一つの出会いで、そんな毎日が特別な時間になった。こんなにも時間を大切にする日が来て、誰かを愛おしいと思う日が来るなんて。




「残りの時間、全部颯斗のためにつかいたいな…」


2人でいろんなところに行って。

たくさんの景色を見て。

おいしいものを食べて。

手を繋いで。

抱きしめあって。

笑ったり照れたりして。

キスもしたい。

そうやって、たくさんの思い出を作るの。

颯斗にとっては長い人生のほんの数ページに過ぎないかもしれない。

だけど、何もない空白だらけのあたしの人生にとっては忘れられないページになる。


「希愛がしたいこと、全部するか」


「うん」


肌に触れる夜風は冷たいのに、颯斗がいるせいかな。

全然寒くないや。

星空の下、街頭に照らされながらあたしたちの唇がもう一度触れた。


「じゃあな。温かくして寝ろよ」


「颯斗も、風邪ひいちゃだめだよ」


今度こそ本当にバイバイ。

だけど、さっきみたいに寂しくないよ。

今なら笑顔でお別れできる。

あたしから離れる颯斗に手を振ろうとした時、


「希愛?」


と誰かに呼ばれた。