椅子に腰掛けたその場から、おじさんの仕事机の上に手を伸ばす。
ギリギリ手が届き、指でこっちに手繰り寄せてから手に取った。
俺が手にしたものを、桃李は不思議そうに見ている。
「…消毒綿?」
…さっきここに来て、何となく見回した時に。
そう言えばあったな…なんて思い出した。
「………」
無言で箱から一枚手に取り、箱は再び机に戻した。
その消毒綿を手に、桃李をじっと見つめる。
「え…」
「右。顔、こっち」
「え?えっ…ち、ちょっと!…だ、だめ!」
この話の流れで、何をされるかわかったらしい。
桃李は首を横にぶんぶんと振っていた。
消毒だ…。
…消毒だ!
「…や、やややややめっ!…やめてっ!」
嫌がる手を払いのけて、消毒綿を持った手で桃李の右頬を狙う。
抵抗してくる手が邪魔だ!
空いた片腕で、桃李の両腕を抱え込むように、抑える。
力弱いヤツの両腕はあっという間に俺にホールドされていた。
そして、その隙に、消毒綿でヤツの右頬をごしごし擦る。
「…あぁぁっ!…痛い!いたい!」
「やかましい!…隙だらけのおまえも悪いんだよ!」
あの蜂谷によって汚された、この大事なかわいらしい頬っぺたを…消毒だ!
生クリームが頬っぺたについただか何だか知らんが。
このぷにぷにで柔らかい俺の大事な頬っぺたをペローンとしやがって…!
頬っぺたペローンだから、命取らずに済んでるけどな?
万が一、口にでもペローンとしていたら、あのヤローはすでに俺の手によって死んでいる。
「…いたい!いたいよー!」
散々悲鳴をあげる中、しばらく擦ったのち、その手を離す。
使った消毒綿は、乱暴にゴミ箱に放り投げてやった。
「…染みるぅぅ…」
「十分乾かせ」
「だからって、ずっと擦らなくても…」
「アルコール綿は30秒擦ってから乾かさないと十分な消毒にならねえってマリアが言ってたぞ」
「うぅぅ…ごめんなさいぃ…」
「何の『ごめん』だ」
「頬っぺ舐められて…」
「………」
それを『ごめんなさい』と言わせていいものなのか。
隙だらけでごめんなさい?か?
…いや、そうじゃない。
謝らせるのは、考えモノのような気がする。
《…おまえのそれ、『何があっても、すべての敵から桃李を守る!』に、ならねえの?》
…なる。
なるんだよ。



