王子様とブーランジェール



しかし、その『しんどい』を感じる度に、やってくる。

あの胸の黒いもやもやが。



『桃李ちゃん、ディープキス知ってる?ベロチューって言うんだけど、舌を絡めてキスするの。夏輝くんもやってくれるの!』


それは、知ってるよ。

でも、夏輝もそんなキスするんだ…。

里桜ちゃんと…。



そして、その内容の過激さが日々エスカレートする。



『こないだは三回したのー!まず一回目は夏輝くんが里桜の…』



過激すぎて、自主規制が入るレベル。

ピーッという音が鳴りそう。

どこを舐めたとか、あそこを舐められたとか。

はっきり言って、普通に気持ち悪い。



それに加えて、私の胸の中には、あの黒いもやもやが立ち込めている。

こっちも日に日にエスカレートしていく。

この黒いもやもやは、胸に痛みをも与えるみたい。

喉と胸の中間地点が抉られるような感覚だ。



(痛い…)



加えて、話の気持ち悪さのためか、吐き気もする。

夏輝と里桜ちゃんが…。

…そう思って想像すると、吐き気は増強していく。

手の先もビリビリと震えていた。



『夏輝くん、後ろからギュッて抱き締めてくれるとき、すごい良い匂いするんだー』



聞きたくない…。



『でねでね?里桜がおねだりすると、すぐしてくれるのー!』



…聞きたくない。



(つらい…)



胸を抉られる痛みが一層強くなり、息が詰まってくる。

何。何これ。私、心疾患?




『もう、夏輝くんったら、激しいのー!でも私達、愛し合ってるってカンジ?』




(聞きたくない…)




苦しい。苦しいよ。

誰か。

誰か、助けて。




『でね?腰を浮かせてエロいなって…』

『里桜、ここで何をしてるんですか』



痛みにがんじがらめにされていたが、その声で、ふと我に返る。

里桜ちゃんの背後から、その姿が現れた。

その里桜ちゃんもピタッと口の動きが止まる。

無理もない。天敵が現れたのだから。



『あ、秋緒ちゃん…?』



里桜ちゃんは恐る恐る振り向く。

背後にいる秋緒は、眼鏡の向こうの目を細めて、上から見下ろすように冷たい視線を送っていた。



秋緒?何でここに…!



『あ、秋緒ちゃん…ど、どしたの?』



里桜ちゃんの表情が恐怖に包まれたかのように、歪んでいた。

そんな表情をチラッと見て、秋緒は鼻で笑う。