…いや、この俺がコイツを見間違えるワケがない。
何年も、どんな時も姿を追ってきたから。
屋上のフェンスの向こうにあるフェンスの中に。
ヤツはいた。
あそこは…本校舎の屋上だ。
なぜ、そこにいる?
フェンスに貼り付くようにしがみついて、こっちの校舎の屋上にいる俺達を見ている。
さっきは、こっちを見ながらフェンスをパンパンと叩いて何か言ってた。
ここからの距離だと、豆粒程度にしか見えないのに。
敵を目の前にしてエキサイトしている状態だと、普通は気付かないぐらい。
なのに、気付いてしまった。
見つけてしまった。
俺の執念、すごくね?
いや、執念関係ないか。
思わず動きを止めて、視界の真ん中に入れてしまう。
「…つき…夏輝!…夏輝!」
俺の名前、呼んでる…。
今度は、手に何かを持ってぶんぶんと振っている。
その表情は必死で。
こっちに自分の存在をアピールしているようだ。
…何持ってんだ?
ピンクの色した…人形?手の平サイズだ。
「…どうした?」
ボーッと突っ立っている俺の様子をおかしく思ったのか、理人は俺の顔を覗いた後、視線の先を追っている。
ヤツの存在に気付いて、軽くビクッとしている。
「…おっ。桃李?…あそこで何してんの?」
「わからん…」
俺達と目が合うと、ヤツは渾身の叫び声を出した。
「夏輝!…理人!…ケンカだめー!」
ケンカだめー!…って、こっちの様子、見てたのか?!
西校舎の屋上に、俺達がいて。
本校舎の屋上に、桃李がいる。
互いの校舎は、フェンスに阻まれながら数メートル離れている位置関係。
「…おまえぇっ!…そこで何やってたんだ!授業サボって!」
その突然の登場に、いつもの調子で思わず叫び返してしまう。
桃李のいる最寄りの地点のフェンス際まで、ずかずかと足を進めて移動する。
二枚のフェンス越しに数メートル離れた状態で、向かい合うカタチとなった。
すると、ヤツは急にもじもじし出した。
「れ、れ、れ、練習…ごめんなさい…」
練習?
何の?
…しかし。この様子だと。
辛い状況に耐えられなくて逃げ出したとか、悲しみのあまり飛び出した、といった感じではない。
俺達のケンカを制止しようとしている時は必死そうな顔をしていて、今はもじもじと俯いている。
自責の念だとか罪悪感で、てっきり、どこかに逃げて、隠れて泣いていると思ったのに…。



