何でだろう。
あんなに挙動不審で、ダメでドジでイライラさせられるのに。
あんなことがあって、もう関わらないって決めたのに。
…それでも、頭から離れなくて。
《夏輝、部活終わったの?お疲れさま!》
一生懸命、パンを作っている姿に見惚れて。
《やたーっ!ありがとー!》
たまに見せてくれる笑顔が、嬉しくて。
《何で夏輝が謝るの…?私、大丈夫だよ?》
大切にされていたことに気付いて…でも、何であんなことを言わせてしまったのか、後悔してしまって。
もう関わらないとか言っておきながら、俺がいなくても何も変わらないという現実を知ると、だいぶ悲しくて。
…実は、この数日。
桃李と関わらなくても、平気で過ごしていたように思えたが。
一人になるとやっぱり、桃李のことばかりを考えてしまっていて。
あぁ、思い出したら、クロワッサンだって食べてない…。
もう、頭から離れない…。
無理だ…桃李以外の誰かなんて。
「…ごめん」
頭がヤツでいっぱいになってしまった中、自然と口から出てきたのは、その一言だった。
「………」
あゆりは黙ってこっちをじっと見ている。
何の返答もない沈黙が、ソワソワさせられる。
俺、今…『ごめん』って言っちゃったんだよな?
それは、つまり、告白断ったことに…。
「わかってる…」
「…ん?」
「わかってるよ!」
こっちを見据えたまま、言葉を突き付けられる。
え。わかってるって…。
「…そんなのわかってる。夏輝が神田さんをそう簡単に諦められないことぐらい」
「…え?は?」
「今のは、ただ言いたかっただけ。私の気持ちも…あるから」
そう言って、また「ふふっ」と笑う。
「…見ててわかっちゃったんだ。もう敵わないなって」
あゆりは笑ったまま、視線を下に落としていた。
「だって、神田さんがサッカー部に来た時…心ここにあらずだったでしょ?…ずっと気にして、ずっと見てるんだもん」
「…そうだったか?」
「最後の日、一緒に帰ってるの見ちゃったし」
最後の日…洗車していた時か。
朝、寝不足でブッ倒れたりとか大変だった日だ。
見られてたのか。



