あれは、中学の時だったろうか。
高校受験、公立の入試の直前の頃か。
2月ぐらいの話。
試験直前の勉強合宿を秋緒が企画し、週末を利用して桃李と圭織が家に泊まりに来たことがあった。
…えっ。桃李、勉強しにうちにお泊まりに来るの?
もしかして…ここ、俺の出番じゃね?
1月末に、理人と共に推薦合格を決めて、一足お先に受験戦争が終了していた俺。
塾もやめて身軽なので、桃李に勉強を教えることぐらい楽勝の身だ。
これでまた頼れる男アピールを…!
それに、桃李が俺と同じ高校を受けると言い出した。
同じ高校、行きたいし…。
これはもう、合格してもらわねばならない。
だなんて、妙なヤル気を持って、二人が家に来るなり秋緒の部屋に乗り込む。
『何で来るんですか。邪魔くさいですね』と秋緒に悪態つかれながらも、無理矢理輪の中に入り込む。
秋緒の部屋のこたつを囲んで、桃李と圭織に講師気取りでわからない問題を教えていく。
『…あ、わかった。何だかわかったような気がする。夏輝の説明わかりやすい』
『…だろ?その調子でもういっこやってみ?』
『わかった!』
俺の説明で難問をクリア出来た圭織は、嬉しそうにノートをめくり、ペンを走らせる。
圭織、テストの点が取れなくて、冬休み明けまでどんよりしていた。
でも、開き直ったら調子が出て来て、最近のテストでは良い点取れたみたいだ。
良かったな。
さて。桃李はどうしてる?
顔を上げて、真っ正面にいる桃李の様子を伺う。
…が。
『………』
ペンを持ったまま、ボーッとしている。
心ここにあらずだ。
こいつ…入試まで時間がないというのに!
おまえは評定ギリギリだから、学力点を稼がねばならないんだぞ!
持っていたペンで、桃李の額をパシッと軽く叩く。
『…わわっ!』
衝撃で桃李は我に返り、体を震わせ悲鳴を上げた。
『い、い、痛いよぉ!』
『…何ボーッとしてんだおまえは!勉強せい勉強!ったく…』
『あ、あああ…うん』
がさがさと挙動不審に慌てて、バッと問題集に向かう。
最初は、うーんうーんと考えながら、問題を解いていたが。
『………』
ふと、浮かない表情になり、視線を落としていた。
いつもの泣く寸前の表情とは違って。
どこか悲しそうな…。