王子様とブーランジェール




…だなんて、言っている場合ではない。

誰もが、教室の空いているドアの向こうに注目した。



「こ、こんにちは…」



…ええっ!!



キョロキョロとしながら、なぜか照れ臭そうにひょっこりと顔だけを出す。

その正体は、衝撃だった。



まさか。まさか…!

嵐さんの密に想っている男が、こいつとは…!



そのインパクトのある風貌。

一度見たら、忘れられない。

…目にしただけでも、イラッときたぞ?



でも、まさか。

まさか、こいつだったとわ…!




「高瀬センパイ…?」



女子の一人が呟く。



見てくれ陰性感情十分そそられる。

そのゴリラの顔が、ひょっこり現れた。

高瀬…!



嵐さんの密に想っている男が、高瀬?!



う、嘘っ!

衝撃…!



俺達の前に登場した高瀬は、なぜか赤面し、照れ臭そうに挙動不審になっている。

「あ、あ、皆さん…お疲れさまです…」



もう、唖然とするしかない。

開いた口が塞がらないぞ…?




「…って、なぜ姿を現しているのですか!このゴリラぁっ!あなたのことはお呼びではありませんわーっ!」




小笠原が、泡食った様子で怒号を飛ばす。

怒鳴られた高瀬もビクッとしていた。



「ゴリラ!あなたはただのお付き添いでしょうが!誰がでしゃばって、ひょっこりゴリラになれと言ったのです!下がりなさい!下がりなさいぃーっ!」

「…いっ!あ、あ…す、すまん!…おい!やはり怒られたじゃねえか!こら!」

轟々と責め立てまくられる高瀬。

さすがのゴリラも慌てている。

慌てゴリラ。

だが、その慌てゴリラは…傍にいる誰かに話し掛けている様子だ。

もう一人、いる?

姿は丁度隠れていて見えない。



「…まったく!おまえが『先に出ろ』っつーからしょうがなく先に出たのに…やっぱり怒られたじゃねえか!俺は『ヤバいって!』って、言ったぞ?言ったぞ?」

「うくく…ごめんごめん。…ぶふっ…やっぱりね?やっぱりね?うくくく…」

「…はぁ?!やっぱりって…確信犯かコラァ!おまえが大丈夫っつーから、言うとおりにしてやったのに!確信犯か!…このっ!」

「いたっ!いたたた…やめて…」



姿の見えないところで、何やらモメている…。




…だが。

今のいたずらな笑い声で、誰だかわかってしまった。



「…来い!出ろ!」

「痛い痛いっ!ごめん。ごめんね高瀬。ひょっこりゴリラ」

「…余計だ!」