王子様とブーランジェール




そう言って、嵐さんはそのままずかずかとこっちにやってきた。

俺の腕にしがみついている桃李の肩を、手の平で押してどつく。

桃李は「ひっ!」と短く悲鳴をあげている。

このっ…!



「…やめろ!」

桃李を背に庇って、二人の間に入る。

何で、桃李ばかりにそんなに絡んでいくんだ?!

だが、彼女は俺にでさえも顔を歪ませて、その憎悪の表情を向けていた。



「竜堂くん、どいてよ!」

「どくか!離れろ!」

「…うるさいぃっ!この、絶倫変態男!」




え…。

絶倫変態…?

軽くグサッときた。




今まで媚びられてきた態度から一変、牙を剥かれて少し戸惑ってしまう。

…いや、それは別にいいんだけどさ。

慌てて周りを見渡すと、理人だけが隅で静かに笑いを堪えている。

野郎…。

他の周りのリアクションが薄いのがせめてものの救いだ。

ちっ。女豹が。まさかの爆弾落としてくれるな。

一晩愛しあったとか何とか言っておきながら、絶倫変態…そう思われていたのか。

ちょっとショック…。




そんな小さなことを、一瞬だけ気にしてしまっている間にも、嵐さんは俺の後ろにいる桃李を睨み付けている。

今にも喰ってかかりそうだ。



「…あんたはいいわよね?」

「えっ…」

「幼なじみってだけで、こうして竜堂くんが守ってくれるもん。いいご身分よね?…それに、可愛い上に弱々しいもんだから、いろんな人が守ってくれるしね?」

「……」

桃李は首を横にふるふると振っている。



「でもね…幼なじみなんて、どうせただの『過去』なんだからね!時間と共に消えて、思い出が綺麗になっていくだけの、ただの偶像崇拝なのよ!…あんたにはわかんないでしょ?」

「あっ…」

桃李は何かを喋ろうとしていたが、声が出てなかった。

口をパクパクさせている。



こいつ…何を言ってるんだ。

俺が桃李を世話したり庇うのは、幼なじみだからっていう理由だけじゃない。

もっと特別なモノだからであって…。



「幼なじみなんて…」



嵐さんは、そう呟いて、下唇を噛んでいる。




この人…。




ここで、ちょっとした違和感があった。




嵐さんは、桃李個人に怒りを向けている。

…と、いうよりも。

『幼なじみの関係』そのものに、怒りの矛先を向けているんじゃ。



「幼なじみなんて…ただの偶像崇拝よ!」



それは、まるで。

自分に言い聞かせているかのように。