「…桃李、どけ」
俺が一言放つとヤツはビクッとする。
だが、そのビビりを払いのけるかのように、首を横にぶんぶんと振っていた。
「だ、だだダメ!どかない!」
「…何でだよ!」
桃李、何でおまえがこいつらを庇う?
おまえは、こいつらに痛い目に合わされたんだぞ?!
なのに…!
イラッときて、桃李を押し退けて前に出ようとしたが。
「だ、ダメ!い、行かせない!」
行く手を阻むかのように、拳を作って握っていた右手をグッと掴まれる。
抱え込むように引き寄せられて、必死で制止させられていた。
「…桃李!」
「だ、ダメ…傷付けちゃ、ダメ!」
その時、なぜか。
右手の震えが止まった。
「そ、そ、そんなことしたら、夏輝も傷付いちゃうっ…!」
怒りでごちゃごちゃになっていた頭の中は、徐々に晴れて。
ふと、我に返った。
俺が…傷付く?
何を言ってるんだ?こいつは?
拳を作っていた右手の力がふと抜けて。
指先が開いた。
俺の右手を抱え込んで掴んでいる桃李の方を見る。
抱えている右手をグッと握りながら、顔を伏せて今度はヤツが震えていた。
それはまるで、俺の手の震えを吸いとったかのように。
「ダメダメダメダメ…絶対にだめぇ…」
桃李、おまえ…。
何で、そんなに。
何で、そんなに必死になっている?
一度出した拳を引っ込めざるを得なくなって、立ち尽くしてしまう。
自分の腕にしがみつく桃李を、そんなことを考えながら、ただ茫然と見ていた。
「…バカじゃないの!」
離れたところから罵声が聞こえて顔を上げる。
声の主は、山田に捕まったままの嵐さんだった。
山田の腕の中でホールドされたまま、こっちに向かって怒鳴っている。
表情は、いつもの媚びを売っているような、下心のある笑みではなく。
完全、敵意剥き出しだった。
「…何が幼なじみよ!…ただ住んでる家が近くて学校がずっと一緒だっただけの関係でしょ?!」
山田の隙を突けたのか、男(見た目はふくよかな女子…)の太い腕の中から抜け出して、こっちにずかずかとやってくる。
俺達二人の様子を視界に見据えて、一層の憎悪の表情を見せていた。
「それの何が特別なのよ!…大切にするほどのモノなの?!…バカみたい!」



