王子様とブーランジェール





朝にもらったクロワッサンは、休み時間の度にひとつずつ食べていたら、昼休みを迎える頃にはすでに無くなってしまっていた。

理人にひとつよこせとせびる。

しかし、速攻で却下された。

だが、相手がパンダフルのクロワッサンなのなら引き下がらない。


「まだ食いたいんだって。残ってんならよこせ」

「大量の弁当も食ってまだ食べんの?おまえどんだけ食べるワケ?竜堂家のエンゲル係数心配だわ」

「あんなの余裕。クロワッサンは別腹。エンゲル係数心配してもらわなくても結構です。いいからよこせ」

「まあ、秋緒は食べなさそうだから心配はないか。クロワッサンはやらないけど」

ちっ。

最後のひとつ、食いやがった。

昼休みの中盤。そんな小競り合いを理人と繰り広げる。

小競り合いで理人に勝てた試しがない。

テストや通知表の成績と告白された女の数ぐらいでしか勝てない。

殴り合いはしたことがないが、これは恐らく俺が勝てる。

…だなんて、小さいこと考えるな。俺。



「竜堂くーんっ!!」



廊下の方から、女子の甲高い声が聞こえた。

俺の名前を呼ぶ声が。

このざわめく昼休みの教室に。

まさかとは思ったが、来たぞ…?

2日連続で来たぞ…?




廊下から、俺に向かって手を振っている。

また、嵐さんだ。



「女豹、来たぞ…」

「ああ…」



まさかの状況、もう笑うしかねえ…。

朝の動画で、真実を知ってしまったし、笑うしかないわ。

俺をおんぶしてラブホテルに入りやがって…。




廊下で全力で手を振っているのに、なかなか腰を上げない俺。

「ねえ、早く!早くー!」

何が早くだ。

行きたくねえ…。



…とも、もう言ってられない。



すると、嵐さんは、入口付近にいた桃李に声をかける。

…って、桃李?なんでそこにいる!



「あ、昨日はすみませんでした…」

「は?そんなのどうでもいいから!…ちょっと!竜堂くん呼んできてよ!この天パ眼鏡!」

頭を下げる桃李に、ドスのきいた低い声で顎を使って指示をしている。

桃李は、ビクッとしながらも、「あ、はい…」と答えていた。



こ、この女豹!

桃李に『この天パ眼鏡』だ?

しかもパシリさせやがって!



ふざけんなよ…!

許されないわ…!



しかし、桃李はおりこうさんに、言われた通りにしている。

真っ直ぐ俺のところにやってきた。



「夏輝、昨日の人呼んでるよ?」




あぁぁ…。

ため息が出た。



好きな女が、女豹のパシリをする。

何とも言えない。

許されない状況だ。




しょうがないので、重い腰を上げる。

…ちょっと女豹とケリをつけなければならない。