王子様とブーランジェール




最後にボソッと「ったく、このチキン…」と、呟いていたのは、はっきりと聞こえた。

反論してやろうとも思ったが、丁度ホームルームで先生が来てしまい、何も言い返せなかった。

ちきしょう。昼休み、覚えてろ。



しかし、チキンか…。



恋愛チキン…言われても仕方ないよな。

思い返してみれば、5年間も一体何をやっていたんだ?という話になる。

何していたか…うん、学校で姿を見かけてはドキドキしたり、何かをやらかせば雷落としたり、パンダフルにパンを買いに行けば、そこで会ったり。

あと、双子の姉と桃李は結構仲良しで、ちょくちょく家に遊びに来たり、お泊まりしていくこともあった。

正直、今と変わりがないのは言うまでもない。



果たして、このままでも良いのか。



正直、良いっちゃ良いんだよ。

幼なじみであるため、普通のクラスメイトよりちょっと仲の良い状態。

適度に幸せな、良い距離感。



…だけど、それ以上になりたいっていう想いがないわけじゃない。

はっきり言って、俺は嫉妬深く。

同じ幼なじみの理人でさえ、彼女と仲良くしていることにイラッとしたりする。

俺一人だけのものにしたい。

そんな独占欲はかなり強い。



『フラれるのが恐いんだろ』



…いや、そうなんだよ。

理人のこのセリフ、かなりグッサリきた。

図星。



幼なじみであるがゆえに。

そういう恋愛対象に見られているのだろうか。

桃李はパンのことばかり考えているからな。

はっきり言って、恋愛そのものに興味がないんじゃないかと思わせる。



それに、万が一、俺が想いを伝えたとしても。

妙に意識されて、この適度に幸せな距離感が崩れていってしまうのは、絶対に嫌だ。

幼なじみであるがゆえに、かえって難しい状況なのだ。



チキン?

…あぁ、そうだよ。

恐いし、不安なんだ。



イケメンだから、告白したら間違いなくOKでしょ?

…いやいや、それはない。

外見なんぞ、きっかけになっても決め手にはならない。

桃李の中でも、間違いなくそれは関係ない。

ぶっちゃけ、イケメンであることは、全くの意味を持たないのだ。



だからと言って、このまま適度な距離感を続けていても。

桃李が他の男と…っていうのは、絶対許されない状況であって。

このままでいるワケにもいかない。



いや、かなり頭を抱えるよ。これ。



そんな感じで悩みまくって、足踏みする状況が続いて、早5年となっているのであった。



だけど…さっき。



『夏輝は優しいですよ?』

『しっかり者ですし、いつも正しいこと言ってるから』



このままでは、いけない。

だなんて、何となく思い始めた。