王子様とブーランジェール




「へぇ…?」



狭山はまた桃李の顔をじっと見ている。

また、何かを考えているのか、何も言葉を発さない。

数秒ののち、『…まあ、いいか』と、首を傾げた。

諦めたか…。





まもなく、ホームルーム5分前。

桃李は、ようやく片付けを終えようとしていた。

持参した皿をディッシュケースに一枚ずつ収めている。

そこへ、狭山がやってきた。



「…神田、パン美味かったぞ?」



腕を組んで偉そうに立っている。

不敵にニッと笑っていた。

桃李は『ありがとうございます!』と、急に頭を勢いよく下げる。



「今度は、店に買いに行ってやる。クロワッサン、アップルパイは絶対とアイスティープラスでな?」

狭山の後ろには、いつの間にか奈緒美や菜月、潤さんたちがズラリと並んでいる。

美梨也は『美味かったぜ!』と、ピースしていた。

「はい!」

「あと、神田。…今後もし、何かあれば私達のところへ来い。必ず助けてやる」

「ありがとうございます!」

おいおい。最後のシメは、まるでヤンキーのケンカ後の和解のセリフみたいだ。

しかし、本当に。

ヤンキーのところへパンを持って乗り込み、切り抜けたぞ。

さすが桃李のパンだ。

さすが、俺の大好きなクロワッサン。



桃李は一人一人丁寧に一礼する。

そして「よいしょ」と、食器の入った布製の袋を両手で持ち上げた。

重たそうだな。

「それ貸せ。持ってやる」

荷物を桃李から奪い取って、肩にかけた。

「夏輝」

「あぁ?」

「ありがと」



ありがと…。



「…間に合わなくなるから、行くぞ」

「はい」



無意識に出た行動なので、あまり気に止めなかったのだけど。

ありがと、貰った。

貰った…!



また、ちょっと感激してしまった。

やった…!



顔に出ないように気を落ち着かせるため、咳払いをひとつする。

やべ…大丈夫か?



家庭科室を出ようとすると。

連中は俺達にも遠くから声をかけてきた。



「じゃあな!殿様!」

「もうおんぶされるんでないよ殿様!」

奈緒美と潤さん。

殿様、ハマったのか?やめてくれ…。

「じゃあね。殿様のナツキくん。くれぐれも嵐には気をつけて?」

菜月もハマったか。

はいはい。嵐さんには気をつけますよ?

って、余計なお世話!

「竜堂くん、和田くん、またねー!」

「竜堂くん、放課後ね…」

優里マネに何を言われるのやら…恐い。

「嵐とイチャこくことがあれば、また動画撮ってやるわバカめ!3Dプリンター使用、楽しみにしておれ!」

「…るっせえな!」

狭山、本当に3Dプリンター家にあんの?

「殿様コース!…」

「…だから、やめんか!」

美梨也はそっちにハマったのか?!


しかし、こいつら、うるせえな!


怒り任せに、家庭科室のドアを勢いよくバン!と閉めてやった。

本当に、関わるとろくなことなさそうだ。

「夏輝、早く行くぞー」

「…わかってる!」

なんとなくイラッとしながら、先に行く二人の後を追った。










「…何か、面白い一年、入ってきたね?」

「竜堂に、和田か…」

「あの二人、『星天中のイケメンコンビ』って言われてた」

「イケメンコンビとパン屋の娘…へぇー」

「和田くん、超かっこよくない?まゆり、好み」

「…学校祭、面白くなりそうだね?エリ?」

「あぁ…私達の命運もかかってるからな」

「ちょっと、頼むよー?みんな」