王子様とブーランジェール





身長180㎝超えの長身であり、モデルのような洗練とした身なりをしたその体は、傍にある木を背に寄りかかっていた。

この緊迫していた空気とは違って、黒ぶち眼鏡をかけた塩顔は、涼しげな笑みを見せており、そして何だか呑気だ。

俺達、結構必死だったんだけど…おもいっきり他人事の野次馬なノリだ。

何なんだ、この人。



「夏輝、成長したな。身長どのぐらい?」



ほら、全然他人事の空気感…。

体の方向を変えて、兄ちゃんのところへ赴く。

「182㎝。兄ちゃんに追い付いた」

「えー。嘘」

最後に会った時は、目線は向こうの方が全然上だったのに、今ではほぼ一緒だ。

「…眼鏡かけてたっけ」

「あ、これ、おしゃれ眼鏡。似合うだろ」

「へぇ…」

「しかし、久々の大乱闘だ。みんなイキイキしてたね」

「…そう」

「網で人間捕まえるとかすごいよねー。誰考えたの」

「……」

あんたのハニーだよ。



っていうか、俺達何でこんなとこで世間話しちゃってんの…。




(…ん?)




ガサゴソとした物音が聞こえてくる。

それは、酒屋の兄ちゃんがいる位置よりもっと奥の方だった。

覗き込んでみるが…暗がりであまりよく見えない。

人と人の動く気配はするが。



「…やめっ!…やめっ!…ぐあぁぁっ!」



突然、人の悲鳴が聞こえた。

え…誰かいる?

だが、やがて静かになっていってしまった。

最後に、バサッと大きい物音がした。




目の前にいる兄ちゃんは、後ろをチラッと見て呼び掛ける。

一瞬だが、眉間にシワを寄せていた。



「…おい。久々に大乱闘を見たからって興奮するんじゃない。あんまりはしゃぐな」



後ろに誰いるんだ?

暗がりでよく見えない…。



一生懸命目を凝らしていると、兄ちゃんが横で「あはは」と笑う。



「…どうしても行きたいっていうから連れてきてやったんだ。あのアホミスター」



防風林の隙間から漏れる僅かな街灯の光が、微かにその姿を照らす。

それは、パーカーのフードを被った後ろ姿だった。

小柄で細い背中だ。



「アホミスターって…」

「じゃ、俺達帰るね。…あ、今度電話する。門さんちで寿司奢ってあげる」

「…ち、ちょっ!」

「おつかれー」



そう言って、兄ちゃんは手を振りながらさっさと去っていく。

呼び止めようとしたが、すでに暗がりの中へと消えて行ってしまっていた。

慌てて後を追うも、もうその姿はなく。