王子様とブーランジェール





…だなんて、自分のことは棚に上げてしまった。

俺だって狭山に殺してやるって言ったもんな…。




マシュー総長の背中を掴んだそのまま、更に引っ張って突き飛ばす。

怯んでいた表情は見せたものの、お怒りはまだ消えない様子だ。

俺を睨み付けて、今にも喰ってかかってきそうだ。

やれやれ。彼女に逃げられたのに落胆する様子もないとは、これは本当にプライドとか意地の問題なんだろうな。

言うこと聞かせて従順にしておきたい。

彼女を支配していたい、ただそれだけか。




(支配欲…か)



…そうかもな。



でも、たかがそんな欲で女を繋ぎ止めるとか。

やっぱり、間違ってると思うけど?





「あ…あぁっ!夏輝様が庇ってくださったわ…!この上ない嬉しさですわ…!」

「夏輝様、ちょーかっこいぃー」



…小笠原、山田、うるさいぞ。

まったく。調子に乗って怒りを煽るな。




そんな二人の声を背に、マシュー総長へ一歩詰め寄る。



「…たかがおまえの支配欲で、よくも関係ねえ連中巻き込んでくれたな…?」



これまでの襲撃事件のことを、思い返される。

いろいろ思い出しては、ムカッ腹が立ってきた。




もう一歩詰め寄ると、マシュー総長が半ばやけくそのように、拳を振りかざして俺の方へとかかってきた。

「…うおぉぉっ!!」

雄叫びと共に、拳は右ストレートとなって俺の顔面を襲おうとするが、左の手の平で受けて掴む。

そのまま力を入れて、潰すように握り締めてやった。

メキメキとかすかに音が鳴る。



…何だ。そのへなちょこパンチは。

本当に高瀬の方が全然マシだっつーの。



「…くっ!…くっ!」

掴んだ拳がくいくいと動いている。

どうやら俺の手から逃れようと、拳を掴まれた腕を引いている。

逃げようとしてるのか。

「…離さねえよ。おまえのしたこと、許されないぞ?」

「竜堂!おまえに何がわかる!俺はバヤセの総長だぞ!」

「腹痩せ?…わかんねえし?」




そのセリフと被せて、苦い味の追憶が頭を過る。




《竜堂、おまえに何がわかる?わかったような口を聞くんじゃない!》




…ホント。全っ然、わかんねえ。



そんなにして、何を守りたいんだ?

そんな風に振る舞わないと、守れないものなのか?



追憶の苦い味を噛み締めて。

逃げられないように拳を掴んだまま、今度は逆にこっちが拳を振るう。

右ストレートのお返しは、おもいっきり顔面に炸裂した。