《引き付けるだけ引き付けたら、逃げろ。…だが、ただ逃げるだけじゃない》
立ち止まり、振り返る。
だが、クソ不良どもの群れが、俺目掛けて突っ込むように、見事に追いかけてきた。
「…に、逃げたぞ!追いかけろ!」
「逃げても無駄だぞコラァ!」
来た。来たぞ。
まるで、獲物を追いかける動物のように。
《あまり距離を離さずに、でも途中で捕まらないように。良い距離感保って…誘導しろ。一匹でも多く…》
逃げる理由。
それは、こいつらを目的地まで誘導するためにある。
目的地…それは、罠だ。
…猛ダッシュで逃げると、集団が徐々に散らばってしまう。
だが、目的地に到達するまでに捕まってしまったら、作戦は失敗。
出来るだけ引き付けて、ギリギリの距離感で逃げる。
《…校舎と花壇の間の細道を通れ。そこからグラウンドに出ろ》
集団が散らばらないように、敢えての細道を通って逃げる。
チラッと振り返ると、広がっていた追手の群れの列が多少細くなっていた。
走るスピードを少し弱めて待つ。
ある程度奴らが追い付いてきたところで、また加速して逃げる。
先頭集団30人程のクソ不良の群れを引き連れてグラウンドに出ると、直線距離50メートルほど向こうのグラウンドの真ん中には、狭山と松嶋が立っている。
お互い金属バット、鉄パイプそれぞれマイ武器を下ろして待ち構えるように立っていた。
《…グラウンドに出たら、野球部のグラウンドの方に私と松嶋が立っている。そこから真っ直ぐ私達の間を通り抜けるように走ってこい》
「…てめえ!お仲間のところに逃げやがってえぇっ!」
「そいつらまとめてブチ殺してやるわコラァ!」
後ろを気にすると、怒りで我を忘れたクソ不良どもが、思惑通り1メートル程度の距離を開けて走って追ってくる。
距離感いいな。いいぞ。
二人の間を目掛けて、足を踏み込んでダッシュをかけ、野球部のグラウンドを縦断する。
走れ。走れ、二人のところまで。
…走り抜けろ!
あと5メートル…4メートル。
ラストスパートはかけて、二人の間を駆け抜ける。
「…今だ!美咲!…真ん中のレバーを引け!!」
通り抜ける寸前、狭山の大声が辺りに響き渡る。
狭山はスマホを耳に当てていた。
駆け抜けてその足を緩めると、息せきかけると共に足がずりっとふらついた。
途端に、松嶋が俺を背に庇う。
しかし…その肩越しに見てしまった。



