そう叫んだ男の手が俺に伸びてくる。
シャツの襟を乱暴に掴まれ引っ張られた。
野郎の怒り顔のアップはキツイ。
《…だがな?頃合いを見て一発かましてやれ。一発だけ、ギッタギタにしてやるがよい》
…いいなら、かましてやるよ。
ヤル気十分。
「…あぁ?…何とか言えやコラァ!」
怒号が飛ぶと同時に、おもいっきり頭を後ろに反る。
返して降り落ちる反動で勢いをつけて、自分の額で、相手のデコを狙う。
衝撃と共にガスッ!と音が鳴り響いた。
「…ぐあぁぁっ!!」
俺の不意討ちのヘッドロックを見事にくらった男は、衝撃で俺から手を離し、悲鳴をあげながらダメージをくらった額を両手で庇う。
バカか。隙だらけだぞ。
だが、その隙を見逃すワケがない。
少し下がって肘を引き、足を踏み入れて右ストレートを顔面にお見舞いしてやる。
悲鳴をあげる間もなく、男はぶっ飛んで群衆の中へと消えていった。
男はその群衆から姿を現すことはなかった。
…かましてやったぞ。まずは一発。
一瞬辺りは静かになった。
しかし、その分倍となって激しい喚き散らした怒号が、間を置いてから吹き出す。
「…り、亮!」
「お…おまえコラァ!何やってくれてんだあぁぁっ!」
「殺す!殺すぞクソがあぁぁっ!!」
俺の不意討ちの反撃で、群衆のあちこちに怒りがドッカンドッカンと噴水のように吹き出している。
…だが、狙いはそこ。
《散々煽れ。我を忘れるぐらい怒らせろ?それから…》
こんなものでよろしいか?
何なら、次の行動へ。
《十分に奴らを引き付けるが良い。ギリギリまでな?》
「ふざけんなよコラァ!」
「イケメンだからって調子に乗ってんじゃねえぞ?あぁ?」
「俺達バヤセを敵に回して、覚悟は出来てんだろうなぁ…?」
徐々にジリジリと俺を囲みだすクソ不良ども。
来た。来たぞ。
奴らとの距離が近くなるにつれて、強く踏み込んだ足を横にずらしていく。
そして、息を吸って奴らに向かって大声で叫んだ。
「…単車は駐輪場に停めやがれクソヤローがあぁぁっ!!」
そして、大きく足を踏み込み、地面を蹴って飛び出す。
素早く野郎どもの波を避わして、群衆を抜けきった。
試合中のドリブル突破より全然容易い。
「…逃げんのかてめえぇぇっ!」
「逃がさねえぞコラアァ!」
突如として、敵前逃亡を謀る。
…だが、これは作戦だ。



