王子様とブーランジェール




『今日は疲れてるからダメだ』と返信するが、彼女は押しの強い女で、『えー?何で?いいじゃんーすぐ帰るから』と、折れない。

無理だ。無理無理。

桃李が秋緒と勉強している同じ屋根の下で、女とイチャつけるもんか。

ダメだ。来たとしても、速攻で家を出てどこかに行こう。


イライラしながら彼女を待つ。

しかし、秋緒から『桃李、そこで心菜さんと会って一緒にうち来るみたいですよ』と言われ、怒りと焦りが混同した。

な、何っ!

俺の本当に好きな女と、俺の付き合っている女が一緒に家に来る…!

何とも言えない複雑さ。

不倫している人の気持ちって、こんなん?

何でこんなに拗れてるんだ、俺。

…この変な状況、やっぱりダメだ。脱け出さないと。

心菜とは、やはり別れよう…。

どんな彼女作っても、やっぱり俺には桃李が一番なんだ…。



これが、俺が彼女と別れるいつものパターンだった。





この拗れている状態に後悔を重ね、多大なるダメージにうちひしがれていた頃。

手元に置いていたスマホが鳴る。



着信…桃李から?



珍しい。俺に電話してくるとか、まずないのに。

嬉しいな…と、思いながらも電話に出る。



『…どうした?』

『な、な、な、なつ、夏輝!た、たたた…』



言葉になってない。

まるで不審者からのイタズラ電話のようだ。




『本当にどうした。落ち着いて話せ。大きく息吸って吐いてから話せ』

『……あ、あの、あのねっ!た、たたた助けて夏輝!』

『…は?』

助けて?

その時、桃李の傍で何かが起こっているのか。

女と男の激しく話す声が聞こえてきていた。

『ちょっと!やめて!…やめてよ!』

『何で嫌がってんだよー!一緒に遊ぼうよー!』

この声は、心菜か?



『あ、あ、あの、あの!こ、こ、こ、心菜ちゃんが、こ、こ、恐い男の人に連れ、つれ、連れて行かれそうな、なんですっ!…こ、心菜ちゃん、い、嫌がってるっ…』



心菜が、恐い男の人に連れて行かれそう?

心菜が嫌がってる?



またナンパか。



心菜は、美人で中三なのに色気もある。

そこらの男は放っておかない。

ナンパはしばしばあるようだ。



しかし、恐い男?嫌がっている?

わざわざ電話して俺に助けを求めてくるなんて。

何てかわいいヤツなんだ…あ、いやいやそうじゃなくて。



ただ事ではないのか?