王子様とブーランジェール





それを聞いて、『へぇー』と気のない返事をする秋緒。

『何て無駄な時間を過ごさせる担任なんですか。自習室にこもってワークを一人で頭抱えてやるより、私の指導のもとに勉強した方が絶対身になりますし、効率が良いと思いますけど。まあ、私は図書室で三國志でも読んで待ってます。桃李にそう伝えておいてください』

言いたいこと一方的に言い捨てて、秋緒はさっさと立ち去る。

何だよあいつは…。

てめえで言いに行け。めんどくせー。



…だけど。

桃李がちゃんとワークをやってるかどうか気になるな。

わからなくて頭を抱えて、そのうち眠ってしまっているかもしれない。

いつまでも帰れないぞ。

まあ…秋緒ではなく、俺が教えてやるっていうのも…。

二人きりの時間が出来るし、頼れる男アピールも出来ちゃう。

名案じゃね?

よからぬことを考えてしまい、恥ずかしくなってしまった。

顔が熱くなってしまう。



二人きりの時間…。



いろいろなことを頭に巡らせながら、自習室へと向かう。

最後まで付き合ってやったら、一緒に帰れるかもしんない…。

あ、秋緒が待ってるって言ってたか。

じゃあ無理だな。ちっ。何が悲しくて姉と下校を共にしなければならない。



しかし、自習室に到着し、ドアに手を掛けようとした時のことだった。



(…ん?)



誰か…いる?

桃李以外に。

男の低い話し声がわずかに漏れていた。




『…神田、だからおまえはダメなんだ。いつも余所見していてソワソワしていて集中出来ていない。忘れ物も多い。気合いが足りないんじゃないのか』

『あ、あ、あ…す、すみません、ま、前村先生…』



この声は、桃李と…担任の前村だ。

またお得意の説教か?

ドアが少し開いており、そこから覗いて様子を伺う。



桃李は立たされており、先生はその真ん前を立ちはだかるように向かい合って立っている。

うつむいて、オドオドとしており、多少挙動不審だ。

いかにも、めっちゃ説教されているという風景。

気合いが足らない…お決まりのセリフ吐きやがって。

どの誰にも気合いと誠意を求めるな。

そんな不満がどんどん飛び出してくるが、それを胸に堪えて様子を伺うように見守る。




『わ、忘れ物には気を、気をつけます…すみません、すみません!』

『ほう、今後は気をつけるんだな?もう忘れ物はしないんだな?』

『は、はい』

『じゃあそれなりの誠意を見せられるのか?』

『せ、誠意…』