王子様とブーランジェール





…しかし、少し気付いたことがある。

いや、この長い付き合いだ。わかってはいたんだけど。





仙道先生が教室に戻ってきて、先ほどからロングホームルームが始まっている。

しかし、ロングホームルームが始まっているにも関わらず、目の前の教壇に先生がいるにも関わらず…桃李は、依然としてY字の美顔ローラーで顎をゴリゴリと擦り続けていた。

泣きそうになりながらの、必死の鬼のような形相で。



まだ続いている仁義なき闘いに、先生もビックリだ。



「か、神田…まだそれやってたのか…」

「………」



とうとう、先生の声かけにも返答しなくなってしまった。

それほどヤツは必死だ。

依然として鬼のように、ゴリゴリゴリゴリ続けている。




「神田、それ…やり過ぎはあまりよくないんじゃないか?…だって、顎、赤くなってきているぞ?違う問題発生するんじゃないかな」

「…えっ!」

予想だにしてなかったことを先生に指摘され、体をビクッとさせて驚いている。

机が揺れた。リアクションでかい。

そして、桃李は恐る恐る擦り続けていた顎を手で触っていた。

本当だ。ほんのりと赤くなってきている。

「…えっ!えっ!えー…先生ぇー!」

桃李の泣きそうな声が聞こえた。恐らく目に涙をためて、もう泣く寸前の声だ。

先生も顔をひきつらせて困っている様子。

「せ、先生ぇ…ど、どうしよ…」

「あ…太って困ってるなら、運動部が使っているトレーニングルーム、使っていいから…今はそれ、やめような?」

「は、はい!」

そう返事をして、桃李はようやくその美顔ローラーを机に置いた。

ようやく手から離したぞ。先生、やるな。

そして席を立ち、教室を出ていこうとした。

桃李の唐突な行動に、先生は慌てて制止する。

「…あ!放課後!今すぐ行ったらダメ!今はロングホームルームの時間でしょうが!」

「えぇー!」





わかっちゃいたけど、気付いたこと。



それは、このバカを相手取って、恋愛に持ち込むということは。

非常に困難であり、一筋縄ではいかない。

実は、だいぶ難しいことではないのか。

…と、いうこと。



例え、行動に出たとしても、それをどこまで理解するのかという…。

相手がこの桃李、というならではの問題だった。