王子様とブーランジェール




「ん?何?」

俺の怒鳴り声で、松嶋はこっちを振り返る。

悪びれた様子はなく、それが更にイラッとさせられる。



「…何だその無責任発言は!おまえがはっきり言ってくれちゃったおかげで、また美顔ローラーで戦い始めたじゃねえかよ!」

桃李はただいま暴走中だ。

それを煽るようなことしやがって…!



だが、この男は。



「ん?…あ、あー…ま、いいんじゃね?」

そして、桃李の様子を見て、再度爆笑する。

おまえ…!

「いいワケあるか!アイツはバカだから、今度こそ絶食始めるぞ?のめり込みすぎて暴走したら、学祭の二の舞だぞ!」

「だって、事実はちゃんと言ってやんないとわかんないでしょ?桃李のためになんないじゃん」

「それはそうだけど、加減ってもんが…アイツはバカなんだぞ!」

「想い人をバカって言い切るかい?普通。だったら、ダンナが触ってあげれば良かったんじゃないのよぉー。『大丈夫だぞ?』って言ってあげればー?」

「んな痴漢まがいのこと出来るか!おまえじゃあるまいし!」

桃李の腹を俺が触る?

考えただけでも、今度は俺が仁義なき闘いに突入するわ!

俺を永遠に戦わせる気か!




まったく。




しかし、桃李はなぜ。

こんなにも必死になっているのだろうか。



ちょっとの違和感を感じたのは、言うまでもない。




桃李が…だぞ?

今でこそ、人の手により綺麗に美少女へと変貌したが。

それまでは、天パ眼鏡のダボダボルーズな制服を着ていても平気だったいわゆる…ダサ子だったんだぞ?

美容だのファッションだの、全く興味のなかった人種だったんだぞ?



なのに、なぜ少しの増量にそんなにこだわる?

暴走しちゃうぐらい、なぜ?

なぜ、見た目を気にするようになってしまった?



…いや、そこが、桃李が『変わった』とも言える部分なんだろうか。

年頃の女子だしな?



…いやいや。

これは、まさかのまさかだが。




恋…しちゃった、とか?



これは、あまり考えないようにしていたのだが。

考えただけでも、腹立たしいからな?

桃李が、他の男を好きになっちゃうなんてな?

もし、本当にいるのなら、そんなヤローは全力で殺しに行くけど。




しかし、胸中は穏やかではない。

ざわざわしているのは、間違いない。



そんな見えない敵への不安もあるからなのか、焦る。

早く、一刻も早く、俺を男として意識してもらわないと…だなんて。