王子様とブーランジェール




いいえ、今使用しているのは、二つ目です。

同じもの、色違いでピンクとシルバー、二つ貰っていた。

没収されたのはシルバーで、今使っているのはピンクだ。



…桃李は、先程の始業式で。

校長先生がステージ上で、生徒にありがたいお話をしている最中にも関わらず。

みんなが綺麗に整列し、静かに校長先生の話を聞いているにも関わらず。

列に並んだまま、このY字の金属製の美顔ローラーで、自分の顎を必死にマッサージし続けていた。

校長先生の話そっちのけで、ゴロゴロゴロゴロと…。

背の高い俺は、列は後ろの方で気付かなかったが、前の方で、ほぼ隣に並んで立っていた咲哉と陣太の話によると、その表情はいつものオドオドした桃李でもなく、いつもの穏やかでニコニコしている桃李でもなく。

やたらと必死な鬼の形相だったという。



必死の形相で、校長先生の話を聞きながら、美顔ローラーで顎をマッサージし続ける女子生徒…。



美顔ローラーはながら美容でもあるが。

よりによって始業式で、ながら美容しなくても…。



もちろん、その奇行は教師の目に止まる。



校長先生の話が続く中、仙道先生が静かに桃李に近付いていった。

小声で注意している。

しかし、桃李は首を横に振っている。

『だ、だめ。だめです先生。今やめてはいけません』

と、拒否をしていたという…。

美顔ローラーを没収しようにも、顔を背けて、先生を拒否する。

やり取りには時間がかかっていた。



その様子を見ていたのか。

そこに、糸田先生が登場。



桃李は、首根っこを掴まれ、あっという間に引きずられて体育館から姿を消しており。

始業式が終わっても体育館に戻ることはなかった。





…からの、この状態。



教室に戻ってきた時には、美顔ローラーは持っておらず、糸田先生に没収されたと思われるが。

まだ持ってきていたとは…!



着席して未だに美顔ローラーでのマッサージを続けている桃李。

一言も発せず、ただ一心不乱にゴロゴロ…いや、やたらとマッサージのスピードが速くなっており、もうゴリゴリいっているような気がする。



なぜ…なぜ、あそこまで必死に?




もはやこれは、仁義なき闘い。

一人で仁義なき闘いを繰り広げていた。

ここでも…!




その様子を見て、松嶋が一言ボソッと発する。



「…いやー。別に痩せる必要もない程度なんだけどね」

「…松嶋コラァーっ!!」