とりあえずご機嫌なので。
鼻唄をうたいながら、玉ねぎとピーマンをザクザクと切っていく。
…え?まだ話どころか目も合わせてないだろって?
バーカ。三週間ぶりに姿を目にした。今はそれだけで良い。今は。
今日のところはそれで十分。
「随分ご機嫌ですねー?」
声をかけられて顔を上げると、理人がカウンター越しに俺の料理の様子を覗き込んでいる。
「ご機嫌だっつーの。って、何?A5ランクの黒毛和牛食ったのかって」
「米取りに来た。あのA5ランク、副院長先生から貰ったって?…って、あれ?夏輝、髪切った?」
理人はキッチンの中に入ってくる。
勝手に茶碗を取り出して、炊飯器を開けていた。
さすが俺んちの常連。物の在処をわかっている。
「そうそう。先生に感謝しろよ?髪?切った切った」
「へぇー。いつ?ってか、ツーブロックじゃん。襟足なくなった。でも耳にかけられる長さなんだ」
「インターハイ終わってすぐ。もう暑くて暑くて髪うっとおしくて速攻美容室行った。耳にかけられるショートマッシュのツーブロックスタイルだとさ」
「ふーん。でもパーマはやめないワケね。かけたの?かかってるかどうかよくわかんない」
そう言って、髪をつまんでピッと軽く引っ張ってくる。
思わず頭を振ってしまった。
「痛っ。やめろ。だって勝手にかけるんだよあの美容師。もっと短くてもよかったんだけど、それは絶対にやめろだと」
「ふーん。で、前髪縛ってちょんまげみたいになってるワケだ。殿様」
そうつなげてしまうのか…。
「俺、良い仕事しただろ?パンダフルの前通ったら丁度出くわしてさー。桃李を待ってたから遅くなったんだ。夏輝のために連れてきてやったんだぞ?俺って友達思い」
ニヤニヤとドヤ顔をこっちに向けてくる。
恩着せがましいぞ。
「は?秋緒のためにって言ってただろうが。でもグッジョブだよおまえは。ご褒美にジンギスカン鍋作ってやる」
「おぉー。シメのうどんある?」
「あるある」
「おぉー。黒毛和牛食って待ってるわ」
ちょうど黒毛和牛が焼けたのか、「りっひおいでー!」とマリアの声がする。
それを聞いて、返事をしながら理人は外へと出ていった。
再び、野菜を切り続ける。
切った野菜をボウルに入れて、冷凍庫にあるジンギスカンパックを取り出す。
忘れずに、ゆでうどんを一玉をも冷蔵庫から取り出した。



