王子様とブーランジェール





「夏輝、字が綺麗すぎるな…」



咲哉がボソッと呟いた。

「ペン習字やってたからな」

筆ペンがあれば、魔除けの効果は抜群だったろうに。

字でもそこらの輩を圧倒させる気、満々。

「ペン習字?夏輝が文化系の習い事?似合わねえな…」

「そうか?あとピアノもやってたけど」

「ええっ!おまえがピアノ?いつ?」

「小学生ん時。キックボクシング始めたら時間無くなってやめた」

陣太と咲哉は目を丸くして驚いている。

「マジ?似合わねえな…」

すると、桃李が傍で呟いた。

「夏輝はピアノ上手だよ。合唱コンクールでも弾いてた」

「意外すぎるわ…さすが王子様、英才教育受けておりますね」



俺の大作が真ん中にデカデカと描かれたうちわを、桃李に手渡す。

「ほらよ。これで狭山や藤ノ宮にメッセージ書いてもらえ」

「わぁー。かわいいー。ピンクの絵。ありがとー」

そう言って、桃李はうちわを振って教室を出ようとする。

早速、書いてもらいに行くのか。

「…あ!桃李!うちわは隠し持って行け!」

「え?…あっ」

すると、なぜか辺りをキョロキョロと見回しながら、着ていたTシャツの下にうちわをサッと隠した。

隠したまま、前屈みで歩いて出ていく。

まるで、不審者だ。変な歩き方。



「夏輝のうちわ、何これ。ケー番だらけじゃね?」

「これは、俺の殺す人間リスト…」

総勢、31人。



その殺す人間リストのうちわを、イラッとしながら見る。

手始めに、コピーして、オレオレ詐欺グループに売り付けてやろうか。





「あのぉ…」



そう声をかけられ、うちわから目の前に視線をずらす。

そこには女子生徒が二名。俺の目の前にいた。



「あ、はい」

誰だ。知らない女子だ。

返事をすると、その女子たちは、俺の方へ近づいてくる。


「あの…さっき描いてたチワワ…私のにも描いてもらえませんか…?」


そう言って、女子たちはうちわを差し出してくる。


「は?チワワ?」


さっき桃李に描いてやったヤツか。

見てたの?

「あの、さっきの子に描いていたチワワ、可愛いなって思って…描いてもらえませんか?」

「可愛い?そんなに可愛かった?」

「は、はい!」

「あんなんでいいなら別にいいけど」

「あ、ありがとうございます!」

女子二人は「やった!」と、言いながら、とても嬉しそうだ。

何が嬉しいんだ?こんな即席のイラスト。