「な、な、何か…うちわ持って歩いてたら、昨日ステージで踊ってたねーって声かけられて、で、で、みんな勝手に書いていったの…」
何てことだ。
下心丸出しのうちわじゃねえか。これ。
ひょっとして、あのチアガール姿を目にして、桃李とお近づきになりたくなった男子たちのケー番なのか?これは…。
しかも、勝手に?
随分と強引なんだな。
まあ、桃李が断りきれていないのは、想像がつく。
これは…。
「って、これじゃもうメッセージ書くところないだろ」
この男子の欲望まみれたケー番だらけでうちわの空白部分はほとんど残ってない。
よく見ると、いつもの黒沢さんたちのメッセージ以外、全部知らない名前だ。
カオスだ。
このうちわ、カオス。
すると、桃李はうつむく。
「うん…まだ、狭山さんとか律子さんとかに書いてもらってないのに…」
しょんぼりしている。
その姿を見ると、ちょっと可哀想かな?って思う。
「まさか、おまえ、ケー番教えてないだろうな」
「あ、うん。ケータイ持ってなかったし、私、自分のケータイ番号知らないんだ」
自分のケー番知らない?それもどうか…。
「…これ、貸せ」
そのカオスなうちわをパッと取り上げる。
「あっ…ちょっと!」
桃李が止めるのも聞かずに、そのうちわを持って教室に入る。
「ま、待って待って」
後ろに着いて歩いてきた。
先程、咲哉が用意してくれた席に、カバンが置いてある。
確か、あるはず…。
カバンを開けて、取り出した。
昨日もらった俺のうちわ。
「ほら。これやる」
「えっ?」
取り出したうちわを桃李に差し出す。
いきなり、まっさらなうちわを差し出された桃李は逆にビックリしていた。
「え…いいの?」
「いいよ。俺いらねえし」
「夏輝は書いてもらわないの?」
「別にそんなの興味ねえし。いい。やる。っつーか、これと交換でいい」
「あ…うん」
「で、黒沢さんたちにはもう一回書いてもらえ。あと、うちわはそのまま持ち歩くな。また無理矢理ケー番書かれるぞ」
何も書いてない俺のうちわを桃李に渡し、そのケー番だらけのカオスなうちわを持って、椅子に座る。
まったく…油断も隙もあったもんじゃねえな。
このうちわの存在に気づいてよかった。
もしこれを桃李が持ったままでいたら、アイツはバカだから、この番号たちに電話をしかねない。
そして、桃李のことだから、騙されて色々こじれたことになりかねない…!



