「………」
思わず、絶句した。
この期に及んで、この状況で、何を言ってるんだおまえは。
空気の読めないヤツだとは、わかっていたが、ここまでとは。
絶句したまま、狭山を見続けてしまった。
「…何だ何だ?そのしらけた顔は!まるでチベットスナギツネのような目をしやがって!」
「おまえ、何言ってんの…」
「…聞こえなかったのか?なら、もう一度言ってやるわバカめ!」
「いや、聞こえてたけど…」
「…この!…この狭山エリ様と!…ケンカの勝負をするのだバカめ!」
そう言って、俺に向かって金属バットの先を向けてくる。
そんな狭山の目は…闘志バリバリだ。
はぁ…一人で何を盛り上がっちゃってるんだか。
「…やらねーよ!」
そんな申し出はバッサリと切り捨てる。
冗談じゃない。こんなにボロボロなのに。
ましてや、相手が女の狭山?
冗談じゃない!
しかし、狭山は不服のようだ。
あのアニメの美少女のような甲高い声で捲し立ててくる。
「…なぜだ竜堂!さてはおまえ、この私にビビっておるな!」
「………」
あぁ、ビビってるよ。
おまえのしつこさに。
なぜ、そんなに俺に固執するんだ。
負けず嫌いもいいところだな。
「…女とはケンカしねえし!疲れたし、もうやめだやめ!」
そう言い捨てて、ケージの外に出ようとした。
だが。
「…くっ!女、女と甘く見るではないぞ!このバカめ!」
瞬時に。背後に殺気を感じた。
気配を察知して、振り返る。
(…何っ!)
俺の目の前には、こっちに向かって飛び上がり。
すでに金属バットをてっぺんまで振りかざしている狭山が…!
「…死ね!竜堂!」
ま、マジか!
フェンスを背にしていた俺は、間一髪すれすれで左方向に移動して、回避する。
俺を捕らえ損なった金属バットは、フェンスにぶち当たり、パァーン!と、音を響かせていた。
「な…何やってんだコラァ!背後から急に襲うな!」
「バカめ!油断していると命のひとつやふたつ、くだらないぞ!」
相変わらず汚いことやってくれるな…!
そして、狭山はまたしても俺に向かって金属バットを片手で振り上げてくる。
それを避けては、退避して、また狭山が金属バットを振り上げて…の、繰り返しになっていた。



