さっきの劣勢も何のその。
いや、劣勢だったことすら認めない俺は、俄然負けん気。
さっきの右腹のダメージは、痛みとして全然残ってる。
だけど、自分に負けるようじゃ…終わってんだよ!
高瀬の右ストレートが来る。
体を反らして後退して回避しながらも、逆に右ストレートを返す。
…『守るべきものがあれば強くなれる』っていうけど。
そんなのって、今の俺には綺麗事にしか聞こえない。
少し下がって出方をみるが、すぐさまヤツの前蹴りが目の前で繰り出され、それを両手を重ねるようにガード。
隙を見て、左足振り上げて高瀬の腰部に当てる。
…守りたいものって、結局、自分のことなんじゃないかって。
そんなダサいことを考えているんじゃないかと思うと、自分が恐ろしくなる。
左足を降ろすと同時に、体を捻らせて、背に感じた高瀬の顔目掛けて後方に拳を作った右手を弧を描くように振り切る。
顎を擦らせたが、今ので高瀬は俺から距離を離した。
…だから、高瀬みたいに『愛』だの『幸せにする』だの、簡単に言ってのけるヤツは、好きじゃない。
そこまでデカいこと言って、守りたいもの、人、ちゃんと守れるのかって。
自分、そこまで強いのか?
そう、言いたくなる。
『激しい乱打戦が繰り広げられてます!ゴリラとえげつない王子様、両者一歩も退かず!』
…正直、俺って全然まだまだだよ。
未熟だ。
自分への猜疑心すら、ある。
離れた距離を埋めるかのように、高瀬に向かって踏み込む。
足の反動で勢いをつけた左ストレートは当たるが、すぐさまに右フックが飛んでくる。
顔ではなく、首と肩の辺りに当たるが、がら空きになったボディに右の膝をすかさず入れた。
しっかり入ったのか、高瀬が「うっ…」と、うめき声を漏らす。
…だけど、そんなものを押し殺して。
せめて、自分の手に届く範囲のものと、自分自身に荷した『決意』だけは、守りたい。
桃李。
おまえの前でだけは、絶対に負けない。
高瀬は体勢を崩すが、痛みを堪えて、左右順にストレートを飛ばしてくる。
スピードが落ちてる。
「…このチャラ男がぁっ!」
あんた、さっきからそればかり。



