「桃りんのおにぎり、味見したら美味しかったから楽しみにしてたのにーっ!何で食べるかな?ね?ね?」
「あとひとつ残してあげたじゃないですか。よく噛んで味わって食べてください?」
「うわーっ!腹立つ!小生意気坊主!」
まゆマネ、普段はおっとりしてるのに、食べ物のことになると鼻息荒くなるな。
俺と似た者同士ってか…。
気が付くと、咲哉たちやみんなはすでに帰ってしまっていた。
俺一人取り残されていた…。
…でも、今日は、それでいい。
一人で正面玄関口を出ると。
駐輪場、駐車場の方がやたらと明るい。
投光器が二台ほど置かれていて、明るく照らされている。
部活で使っている、マイクロバスだ。
泡だらけになっている。
まさか、洗車…!
「先生ー!洗い終わりましたー!」
「おう!したらじゃんじゃん水掛けてけ!」
「はい!」
桃李と糸田先生だ。
こんな時間に、洗車?
マイクロバス、明日使うから?
なんたる重労働だ。
ペナルティ入部、最後の仕事にはふさわしい感じか。
しばらく見守っていたが。
その方向に、足を進める。
「…あ?竜堂?」
「お疲れ様です」
先生がこっちに気付いた。
だが、それも構わず。
先生から少し離れたところにある駐車場の縁石に腰掛ける。
カバンを傍に降ろした。
「…竜堂おまえ!ここはパーマ屋じゃねえぞ!帰れ!」
先生が向こうで怒鳴っている。
だが、そんなの知るか。
「…あれ?夏輝?!」
桃李もこっちに気付いた。
ホース片手に、不思議そうに俺を見ている。
…だろうな?突然現れた感じだし?
だが、今日は。
ちょっとワガママをやらせてもらう。
思いついたら、すぐ実行。
「…桃李!」
「は、はい!」
「終わったら帰るぞ!早くしろ!」
「…え?」
「…いいから、早くしろ!」
「は、はい!」
俺に急かされて、桃李は慌てて作業に戻った。
「…竜堂!明日は試合だぞ!さっさと帰って寝ろ!」
先生がイラッとした口調でこっちにやってきた。
しかし、今日の俺は退かない。絶対退かない。
「大丈夫です。明日は最高のコンディションで来ますから。使ってくださるなら役に立ちますけど?」
「このっ!…」
「あ、うちに電話しても無駄ですから。母は今晩、協会の集まりで家にはいませんし、父は海外赴任中なんで。今、家には同じ年の姉とチワワしかいません」
「あ、あのな…」



