手に取ったままだった髪をそっと戻して、手櫛で再び直した。
こんなにベタベタと触ってるのに…なかなか起きないな。
奈落の底で眠っているような気がする。
寝顔は、本当に無防備で。
これは、昔とは変わらない。
(…なあ?)
桃李…おまえ。
何でそんなに頑張ってんの?
何がおまえをそうさせたんだ?
何でそんなに変わりたいんだ?
おまえを突き動かしている、その原動力は…何?
こんなに寝不足で倒れるぐらい、頑張って…どうしたいんだ?
どうなりたいんだ?
その先に、何が見えてるんだ…?
(わかんねえ…)
わかっているようで、実は何もわかっていなかった。
わかっているつもりだったのに。
昔からずっとおまえのこと見ていたはずなのに。
ずっと…想っていたはずなのに。
『頑張ってるのにさ、何で応援してやらないの?』
現実問題とか、何とか言ってたけど。
照れくさいのも、あるけど。
…本当は、頑張っているその理由が、俺にはよくわからなくて。
桃李のこれからの更なる変化に、ビビっていたのかもしれない。
うまく言えないんだけど。
置いていかれるんじゃないかって、思ったんだ。
俺の知らないところで、変わらないでくれ。
そう、思ったんだと…思う。
頭の中がある程度整理されると、深いため息が出た。
よくもこんな女々しいことを…考えるよな?
俺、このままじゃ…ダメなような気がする。
また、深いため息が出た。
どっと疲れを感じて、うつむく。
(…ん?)
うなだれようとしていた、その時。
視線を感じた。
顔を上げてみる。
(…何っ!)
そこには。
カーテンの隙間から、人の目が…!
小さい隙間から、目が二つ。
おもいっきり中にいる俺達を覗いている…!
その目と視線を合わせると、カッと見開いた。
えっ…!
「あーっ!バレちゃったー!もうっ!」
そして、その隙間から、ひょっこりと顔を出す。
「若いっていいわねぇー!アオハル?だから高校教師、やめられなぁーい!」
げっ…この人!
保健室の先生…麻倉先生だ!
「君たちは、いろんな事を考えて、乗り越えてオトナになるのよー!人間、日々成長!うんうん!」
麻倉みなみ。48歳。らしい。
芸人さんのネタを地で行ってしまった。
っていうか、高校生男女二人でいたら何でもアオハルって言えば良いってもんじゃねえ。
おばちゃんってなぜこうも…。



