王子様とブーランジェール





話をしながらだと、あっという間に保健室に到着する。

黒沢さんがドアを開けてくれた。



「失礼しまーす…あれ?」



保健室の中を見渡してみるが。

人一人、誰もいない。



「あれ?麻倉先生ー?…いないのかな」



先生、不在か?

黒沢さんはカーテンで仕切られた中を覗いている。

二ヶ所あるベッドにも、人の気配はない。



「誰もいない…もう、ここに寝かしちゃお?」



黒沢さんは、カーテンを開けてベッドを指差す。

言われた通りにして、黒沢さんのいる方へと向かった。

「ここ。ここに寝かせて」

すでに掛け布団がめくってあり、黒沢さんは両手でシーツのシワを伸ばしている。

そのせかせか具合、何かおばちゃんくさい。

おかずをお裾分けしに家に来るようなおばちゃん…。




抱き抱えていた獲物…ではなく、桃李をゆっくりと降ろして白いパイプベッドに寝かせる。

降ろしても、ピクリとも動かず泥のように眠っていた。

少しの反応もないっていったい…。




「どうしよう。麻倉先生いないのに勝手に置いていってもね…」

そう言いながら、黒沢さんは利用者カードに桃李の名前を書いている。

確かに…でも、授業始まってんな。

「…俺、付き添ってるよ。先生来るまで」

「え?いいの?」

「いいよ。だから黒沢さんは先に戻ってて。先生来たら俺も戻るから」

「わかった。じゃあお願い。私、1時限目終わったら迎えに来るから」



そうして黒沢さんは、さっさと教室に戻っていった。



やれやれ。



短く一息ついて、ふとベッドに寝ている桃李を見る。

全然起きねえや。寝息をたてている。

そこら辺にあった椅子を持っていき、ベッドサイドに置いて腰かける。

なんだか体の力がちょっと抜けてしまい、桃李の寝ているその横に肘をついた。



あー…なんだかな。



ホントにホントに。

何やってんだよ。



寝ている桃李を横目で見る。

だが、桃李の髪が寝たままながらも拡がっていることに気がついた。

肩下の長さの髪が、放射状に拡がっている。

まるでメデューサだ。

ちょっとツボに入ってしまい、笑ってしまいそうになった。

…いやいや。

可哀想だから、直してやるか。

このままだと黒沢さんにまた指摘されそうだ。



ちょっと身を乗り出して、髪を手櫛しで直してやる。



指通りがいい。サラサラだな。

さすがストレートパーマ。

あのボリュームあるライオン丸ヘアーを一気に黙らせてしまい、すっきりと抑えてしまうその威力、すげえ。