王子様とブーランジェール




たくさんのプリントを両手に抱えながら、教室に戻ってきたのは、眼鏡を外して姿を変えた話題の人物である桃李だった。

プリントを抱えたまま、俺達の前で立ち止まる。



「…あぁ?神田、何だそのベストは。そんなもの朝持ってなかっただろうが」

狭山は桃李の着ている紺のニットベストに注目している。

俺が貸したやつ…。

「な、夏輝が貸してくれたんです…」

「へえ…」

そう言って、今一度俺の方を見た。

意味ありげに何かを言いたそうな視線を送られる。

何だ。何が言いたい。

狭山に警戒していたが、そこへ桃李が狭山へ急に物申し始めた。



「さ、さ、狭山さんっ!だ、だ、騙さないでくださいっ!」

「あぁ?何のことだ?」

「さ、狭山さん!このブラウス、流行りだからみんな着てるって朝貸してくれたブラウス!みんな着てなかった!びちびちでキツそうだって、友達に笑われたじゃないですか!」



…え?

桃李がそこまで物申すことが出来るだなんて!

しかも、あの狭山に!

いつもなら泣き寝入りなのに。

ど、どうした?



すると、狭山は急に大爆笑し始めた。


「バァーカ!騙される方が悪いのだバカめ!いとも簡単に騙されやがって、大層面白かったぞ!」

「な、な、何で騙すんで、で、ですか!」

「あっはっはっはっ!…私はな?Eカップ以上の女子には鉄槌を一発お見舞いすることにしてるのだ!バカめ!親からもらった才能を振り回していい気になりやがって!」

「え、え、え、え?」

Eカップに鉄槌…。

思わず、狭山の胸をチラッと見てしまう。

あぁー…なるほどな。

貧乳の鉄槌か…。

僻みという名の鉄槌…。

「私の言うとおりに、裾を縛ってヘソだしはしなかったのか?それはまるで、アイドルグループのセクスィーで過激な衣装のような出で立ちにしてやろうと思ってなのになぁっ?!」

「も、もうっ!狭山さん、ひどいっ!」

「何回も言ってるがな?騙される方が悪いのだバカめ!…まあ、もうよい。おまえ、日直なんだろ?もうよいから、そのプリント、おまえのドジでぶちまける前にさっさと配ってこい。任務を果たせ」

「…あっ。はい」

桃李は自分の手に持っているプリントを見て、自分のやるべきことに気付いたらしい。

すると、狭山の言うとおり、おりこうさんに速やかに教室に入っていった。



桃李、また騙されてるぞ。

いとも簡単に…。