王子様とブーランジェール





「殺されるって…」

「かおちゃん助けてえぇぇーっ!!し、し、し、死にたくないぃぃーっ!」

糸田先生の下敷きになったまま、手足を勢いよくバタつかせ、腕を立てて体を引っ張って抜け出そうとジタバタしている。

そのうち、糸田先生に「うるせえぞ!」と、後頭部をペチッと軽く叩かれると、パタッと力尽きて再度静かになってしまった。

圭織も呆然と立ち尽くすしかない。

「先生、漬け物石みたいですね…」

「神田漬け作成中ってことで構わん」

どうにもならず、どうでもいいことを口にしてる。



「あれー?」



次にやって来たのは、まゆマネだ。

大きめのジャグを両手で重たそうに持ち、歩いている。

しかし、こっちの様子に気付くと、「わぁ!」と、嬉しそうにさっさとジャグをベンチに置いて駆け寄ってきた。



「やーん!可愛いメガネちゃんだ!どうしたの?どうしたの?」



そうして、桃李の傍にしゃがみこみ、頭をなでなでしている。

頭を撫でられている桃李は、撃沈したまま無反応だが。

「何でメガネちゃんがここにいるの?ひょっとしてサッカー部に入部したのっ?わぁ!嬉しいなー!」

「違うよお姉ちゃん。その人は2週間だけ。しかも掃除や力仕事だけ」

あゆりもやって来て、姉妹並んでいる。

「えー!何だつまんない!…でも2週間一緒なんだね!掃除と力仕事なら、まゆりが一緒に教えてあげるー!金曜日や土日はおにぎり作るんだよー!」

「おいおい林姉。おまえだと何だか不安だっつーの」

「大丈夫ですよ先生!まゆり、可愛いメガネちゃん大好きですから!…ほら!先生どいて!」

「ダメだ!ダメだ!今日はダメだ!」

そして、先生は立ち上がる。

「オラ、立て!」

桃李のジャージの背中の部分を引っ張り上げる。

「今日は倉庫の大掃除だバカヤロー!」

「はい…」

引っ張り上げられた力で、無理矢理立たされていた。

表情がすでに疲れ果てており、どよーんとしている。

大丈夫かよ…。



すると、先生は立ち止まる。

その光景を呆然と見守っている俺達を一気に睨み付けた。



「…あぁ?おまえら何ボーッと突っ立ってんだぁ?」



し、しまった!

恐らく、ここにいる部員全員、そう思ったはず。



「…さっさと練習始めやがれ!インターハイまで時間ねえんだよ!」

「は…はい!」



そして、あっという間に散っていった。

俺も一緒に。

あの威圧感と迫力、半端ない…!

ヤクザも真っ青だ。