「…ぎゃっ!」
イライラ任せに思わず。
桃李の額をバシッ!と、右手でビンタしてしまった。
ただ、何となく。
ノリツッコミのように。
同時に、桃李は短い悲鳴をあげる。
「痛い…痛いって夏輝…」
俺にやられた額を両手で押さえて、更にうずくまってしまった。
「バカヤロー。ぐちゃぐちゃ言ってんじゃねえ!」
「ええぇぇ…」
「ちゃんとした人間になれるように、努力しろ」
「は、はい…」
やってしまった…。
イラッときて、思わず…。
愛する人の額に、ビンタ…。
俺こそ、イライラ堪えられるように努力せねば…。
俺だって、ダメ人間さ…。
後悔の念が押し寄せた。
ずーんと落ち込む。
しかし、落ち込む俺とは裏腹に。
桃李はいつの間にか、顔を上げていて、俺にやられた額を擦っている。
「夏輝のデコビンタ、久しぶりだ」
そして、へへっと笑う。
「…そうだっけ」
「うん。中学の時以来」
もう、遠い記憶になっている。
覚えていない…。
「あー。早く帰りたいなー」
「何で?」
「だって、宿泊研修来てからパン作ってないもん。もう2日もパン焼いてないよー」
「…あ、そうか。したら俺もパンダフルのパンを2日も食ってないってことか…」
「朝のバイキングのパン、あまり美味しくなかったし…。改善すべき点、たくさんあるよね」
「あれはちょっとなー…って、おまえ、パンのことになると饒舌になるな。改善点あるよねって言われても、よくわかんねえし」
「そう?水の割合、絶対適当にしてると思うんだよね。だからきっと小麦粉の量もわずかに微妙に配分おかしいんだと思う」
「何言ってんだか、さっぱりわかんねえ。どうでもいいけど、おじさんと苺さんの焼いたパン食いてえ」
「あ、じゃあ帰りうちに寄る?お母さんに電話して、帰る時間に合わせてクロワッサン焼いてもらお?」
「え?マジか!」
「夏輝が食べたいって言ってるって聞いたら、絶対焼いてくれる」
何でか知らないが。
会話、はずんでる。
「お父さん、最近腰痛いんだって。整骨院通ってる」
「マジ?仕事に影響しないのか?」
「職業病ってワケじゃないと思う…もう40過ぎたし、お母さんが悪いんじゃないかな…」
「はぁ?何で苺さんが?」
実は。
桃李とこんなに喋ったの、久しぶりじゃねえか?



