王子様とブーランジェール





「あー…」



松嶋は、天を仰いでいる。

何かを考えているようだ。



「…あれ。言わなかったっけ」

「は?」

「いや、言ったっしょ。森で。桃李が落ちた直後に。ダンナ、聞いてきたでしょうが。『何があった?』って」



言った…か?



思い出してみる。



『いやぁー…あまりにも、怖がって怖がってのたうち回るもんだから、一発強く抱き締めた…』

『あまりにもガクブルなもんだから、ちょっと和ませてやろうと、冗談を言ったのよ』

『あぁーっ!竜堂のダンナ、柳川とチューしておっぱい揉んでるわ!てさ』



あ、あれか…?

あれは、冗談じゃなく、本当だったのか!



「一発強く抱き締めたのは、ホント。竜堂のダンナと柳川がイチャイチャしてるって教えたのもホント」

「…おまえ!」

「え?だってホントでしょ?柳川、びったり寄り添ってたじゃん」

「おっぱい揉んでチューはしとらんわ!」

そこは見えてたのか…。

「でも、桃李が何で落ちてったかは不明さ。ホント見てなかったし。抱き締めたのは、それよりも前だし。動揺しまくりではあったけどー?」

「桃李は、おまえに驚かされたから落ちたって言ってたぞ?!」

「何で驚いたのかは、わたしゃ知りませんけどね?ぷぷっ」



松嶋のふざけた態度と返答にイラッときた。

だ、抱き締めただと…?

桃李に手を出していたのは、事実か!

俺の桃李に触りやがって…許されないわ!




「…松嶋!」

思わず手が出る。

胸ぐら掴んでやろうと思ったが。




「はいはい暴力反対!」

ヤツは俺の手を瞬時に押し退け、体を避ける。

攻撃線から逸れて回避した。

なっ…避けられた?!




松嶋は、フフンと笑っている。

あの、不敵な笑いだ。



「面白ぇ…」



イラッともするが。

いつものお調子者の松嶋の表情ではなく。

ちょっと警戒もする。

何なんだこいつは。



「…面白ぇ。面白ぇよ。竜堂のダンナ。まさかまさかの、だな」



こいつは、何を言ってる…?




「『桃李の隣にいたのがおまえじゃなくて、俺だったら、こんなことにはなってねえよ』ってか?」



実は、松嶋は。



「『桃李にもしものことがあったら、殺してやるからな!』ってか?…随分と溺愛してんねー?桃李のこと」




気付いていた…。