王子様とブーランジェール




先生は俺のところにもやってきた。



「竜堂、頼むから無謀なことはやめてくれ…あの絶壁降りていくとか、おまえもケガしたらどうすんの!サッカー部のスタメンをケガさせたら糸田先生に怒られるでしょうが…」

「あぁー…すみません」

「平謝りか!おまえもボロボロだぞ!頼むわ!」

絶壁下って行った時に、枝に引っ掛かったりして腕に細かい傷がいくつかあるが。

そんなの別にたいしたことない。

先生、責任問題あるからな。

ホント、すみませんとしか言い様がない。

でも、後悔もしてないので、平謝り。

っていうか、何で俺だけ怒られる…。

絶壁から転落したのは、桃李だって。




すると、横にいた理人は笑う。

「まあ、俺は夏輝が必ず桃李を連れて無事に帰ってくると思ってたけどね?」

「おまえ…」

「だって、俄然負けん気は専売特許、諦めの悪さは標準装備でしょ?」



そして、俺に耳打ちする。

先生や桃李たちに聞こえないように。



『で、何かあった?二人きりだったもんなー?あー楽しい』



おまえ…!

さっきの自爆しかけた模様が、ふと頭に過った。

あれは…!

急に恥ずかしくなって、思わず近くにあった理人の額にビンタした。

「…痛っ!急に何だよ!」

「っていうか、桃李の葬式ではおまえしか泣かないことになっている」

「はぁ?」

「桃李、おまえのこと好きかもな…」

関係ない話をぶっこんでしまった…。

理人の目が…ここぞとばかりにシラケている。

額にビンタし返された。

「…痛っ!」

バシッ!と、良い音したぞ。

「夏輝って、ホント手の付けようがないバカ?」

「はぁ?」

「一生、迷える子羊でいたらいいよ」

「はぁっ?!」







結局、この絶壁転落事件は、あまり大事にはなっていなかった。

他のヤツらはすでにホテルに戻っていた。

みんな、何事もなかったかのように、普通。





俺が絶壁を下っている間に、すぐに理人が黒沢さんと駆けつけ、先生も呼んできてくれて。

桃李がぶち破った柵も、理人が速やかに直し。

次々と通りすがる他の生徒に気付かれないよう、探し物をしているような芝居を打ってくれたそうだ。

理人、こういう時、やはり役に立つ。

付き合い長いから、わかってくれてるな。

警察だの捜索だの、大騒ぎになってたら、いろいろと面倒くさいことになってたし。

やっぱり、探しに行ってよかった。