「何?」
「…眼鏡、ぐちゃぐちゃだな」
桃李はすぐさまパッと眼鏡をはずす。
今頃、眼鏡の成れの果てに気付いたのか、『わっ!』とびっくりしていた。
「えー!どうしよー!ホントにぐちゃぐちゃだー」
ショックだったのか、目をうるっとさせている。
「スペア持ってきたか?」
「ひとつあるよ」
「わかった。とりあえず今はそれもうかけろ」
「はい」
眼鏡を再びかけ直した桃李は「あぁぁぁ…お母さんに怒られる…」と、ため息をついてうつむいた。
…ヤバかった。
ヤバかったぞ…!
どうでも良いことを言って、乗り切ったが。
今はマジでヤバかった。
ムードに押し流されて、欲望がふつふつと。
変なことを口走りそうになった…!
愛の告白のひとつやふたつ。
更には…キスまでしたいと思ってしまった…。
自制心、働いてよかった…。
あ、危ない…。
(あぁ…)
いや。
いっそのこと、言ってしまえばよかったのだろうか。
いや。
何の考えもなく、勢いで言ったら玉砕する。
いや。よかったのだ。これで…。
まだいろいろと問題抱えているし。
松嶋のこととか。
どっと疲れた。
もうしばらく歩き続けると。
石造りの大きい橋が見えてきた。
あれが、理人の言ってた…。
橋の付近には、人影がちらほらと見える。
「おーい!桃李ー!」
これは、黒沢さんの声だ。
じゃあ、隣にいるのは理人か?
あ、仙道先生もいる。
「りみちゃん!」
桃李も気付いたらしい。
人影に気を取られている隙に、俺の腕から降りてしまい、駆け出す。
あ、おい!
「桃李!また転ぶぞ!」
と、同時にまたしてもバーン!と前に転んだ。
「ちょっと桃李!何転んでるの!」
「もういいです…」
だから!
右足痛めてるんだっつーの!
もういいですって、さっきから何だ?!
天丼こそ、もういい!
ったく…。
そうして、やっとみんなと合流し、無事生還。
桃李はなぜか、仙道先生の顔を見るなり『先生、落ちてごめんなさいーっ!』と、急にわんわんと泣き出した。
仙道先生は、『え?いや、無事なら何よりだから。神田、助かってよかったな』と、言いながらも、ちょっと困っていた。
先生を困らすんじゃない。



