歩いている背中の方から、彼の低くてキレイな声が響く。
彼に背中を見せたまま、立ち止まった。
「…うん」
ぎこちなく二回ほど頷いてから、恐る恐ると彼の方を振り返った。
「へぇ…?」
暗がりではっきり見えないけど。
蓑島くんは、恐らく笑みを浮かべている。
面白がっているような、悪い笑みを。
「あんなに拒否っていたのに、どういうこと?」
「………」
言葉がうまく出てこない。
何を言ったらいいのか、迷ってる。
…でも、私は決めたんだ。
「…み、蓑島くん」
「ん?」
俯いてしまうが、彼の顔をチラッと伺う。
私が何を話すのか、じっと見守るように待ってくれているようだ。
震える手を、拳にしてグッと握る。
「…蓑島くん、私の彼氏になって」
…きっと、私。
このまま瞳真のことを好きでいたら。
「私…こんな醜い感情、持っていたくない!あの二人と、普通に…仲よくしたいの」
嫉妬で嫌なヤツになる、自分を嫌いになる。
「…らしいな?星月らしい」
でも、そんな私を、蓑島くんは見てられないって言った。
これはもう、この感情にとことん付き合ってもらうしかない。
「…フリだけでいい。彼氏の…フリ」
「フリなの?」
「だ、だって…蓑島くんのこと、正直好きと思ってない」
「…ははっ」
彼は笑った後に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
上等だ?みたいな。



