目的地に近づくと、足を緩める。
そこには、硬いボールが当たる金属音が鳴り響いていた。
部員が横から放ったボールを、バットを振り回して目の前の緑のネットに向けて打つ。
トスバッティングだ。
バットを握って構える彼の後ろ姿を見つめる。
チラッと見え隠れする彼の表情は、今まであまりお目にかかることのない真剣さで。
ボールを捉えようとする目が鋭くて。
…いつもふざけてばかりいないで、ずっとこうしていたらいいのに。なんて、感想が出てしまう。
「…お」
私の存在に気付いたのか、構えていたバットを降ろす。
「すんません!今日終わり!」と、相手に一言かけて、バットを持ったままこっちにやってきた。
「…来た?」
フッと笑いをもらすその表情は、どこかやんちゃで。
キラキラパワーのおかげで、ドキッとさせられる。
もう、本当に反則技ばかり。
「…蓑島くん」
「ん?」
「話があるの」
「…へぇ?」
もう、覚悟は決めた。
これからのために。
グランドから少し離れた所へと移動する。
投光器の灯りから逸れた、暗がりの人気のいない場所へ。
「…俺のオファー、受けてくれる気になったの?」



