まさか、蓑島の口から野球へのポジティブな発言が聞けるなんて。
急にどうしたのかと思いながらも、嬉しかったし安心していた。
『もう、急にどうしたの』
『…お、それ。聞く?聞く?』
『聞く。スベったら殺すわよ』
すると、蓑島はぐしゃぐしゃになったティッシュを持ってきて開けた。
『え…まさか、鼻くそじゃないわよね?』
『どんなプレイだよ』
開けたティッシュの中は、鼻くそ…。
…ではなく、四つ葉のクローバーがひとつ。
『…あんた、まさか試合中にこんなもの探してたの?』
『探してたんだけど、見つからなくってさ。でも…探してもらったんだ。勝利の女神に』
『勝利の女神?…だれ』
『わからん。サッカーっぽいジャージ着た女の子。ライオンズの応援に来てた。…で、勝利の女神に四つ葉のクローバーもらったから、ホームラン打てた。試合にも勝った』
…その時の蓑島の表情は、 かつて野球を楽しんでいた時の笑顔。
最近まで見せていた尖った顔ではなかった。
『ゆら、俺…もうちょい頑張る』
『え?』
『野球。もうちょい頑張る。中学でもやるわ。…これからも、何本もホームラン打ちたい』
蓑島は、その四つ葉のクローバーを、嬉しそうに見つめていたという。
まるで、神様を崇めるかのように。



