無視し続けて先に進む。
横断歩道を渡り終えて、勢いで左に曲がり、パン屋さんの方向へと体を向けた。
でも、この男は追ってくる。
「ごめんごめん。さっきの嘘。可愛いって。デラックス」
「嘘と言っておいて、デラックスって何!」
頭にき過ぎて、思わず振り返ってしまう。
しかし、目が合うとまた失笑され、またイラッとさせられた。
ホントに、デリカシーのない男だ。
「…で、おまえ、どこ行ってたの」
「べ、別に。瞳真には関係ないじゃん」
「だからごめんって言ってるだろ。…ん?炭くさくね?焼き肉?」
「…べ、別に!」
「何?えりか様のモノマネ?」
「………」
…付き合ってられない。
何なの最近の瞳真。いつもならこんなに突っ込んでこないのに。
普段はそっちが「別に…」なんて、えりか様になってるくせに!
まるで、昔に戻ったみたい。このやり取り。
昔みたいに…。
(………)
…そうだ。
昔は、よく二人でこうバカなやり取りしてたね。ふざけ合って。
それがいつからか…後藤さんのあの件があってから。
どんどん距離が離れていった。



