「う、うん…明日朝早いし」


さっきの菊乃さんの話が、頭を過ってしまった。

…でも、動揺は見せないように、笑顔を向ける。



「そっか、残念。でも、また来てね?」

「うん!楽しかったよ!」



また来てね、か…。

こんな言葉のあやにいちいち反応してしまう自分が物凄く嫌だ。



横川さんにとっては、この蓑島家は我が家も同然。

そんなに深い仲だということ…だよね。



「…横川さん、また明日!」



笑顔を見せて手を振ると、向こうも笑顔で手を振り返している。



「うん!また明日!」



醜い感情は胸の奥底に押し込めて、笑顔を見せる。

不器用な私にはそれが精一杯だった。








「…別に送ってくれなくてもいいのに」

「何言ってんの。熊出たら命無いよ?」

「…出るの?」

「可能性はあるかもでしょ。バス停までだから。送ってく」



そういうことで、バス停までの帰り道。

蓑島くんと二人きり、並んで歩く。

ほんの数分の道のりを。




「楽しかった?…まあ、やかましい大人達いたけど」

やかましい大人達、それは…お父さんのお友達や、横川さんのお祖母さんのことだろうか。