飲み物を皆に渡した横川さんは、牡蠣の殻を剥き続けている蓑島くんに「私のは?」と、聞いて自分の席に着く。
「ほらよ」と、牡蠣が三つ乗ったお皿を彼女の前に差し出していた。
そして、紫苑先輩の方に手を伸ばす。
「紫苑くん、それ取って」
「…あ?これ?レモンか?」
「うん」
紫苑先輩から液体レモンの小瓶を受け取って、それを横川さんのお皿の傍に置いた。
「ありがと」
それを手に取り、牡蠣に垂らしていた。
蓑島くん、横川さんがレモンを必ず使うって、わかってたんだ…。
蓑島くんに『あれ』持ってきてと言われて。
横川さんは、蓑島くんや自分のだけではなく、私達のぶんのジュースも持ってきて。
蓑島くんのところにはコーラを置いて、私達にはジュースを配ってくれた。
俺にはコーラを持ってきて。
で、みんなの分の飲み物も持ってきて。
…って、意味だよね。
横川さん…それを、『あれ』って言われて、わかったの?
(………)
こんな楽しい会食の最中に、ふと自分の心の中の暗い部分に意識が行ってしまう。



