「…そう?蓑島くんのお母さん、仕事してたの?」
「うん。二年前に辞めるまでは、俺達が生まれる前からずっと仕事してたの」
「えっ!そんなに!何で辞めちゃったの!」
すると、玄関で靴を履き終えた蓑島くんは、急に振り返る。
急な動作だったので、ビクッとしてしまった。
「…これがね、不思議な話なんだよ」
「え?何なに?」
「うちの母さん、二年前に滝壺に落ちてんの。で、溺れて一週間意識不明」
「…えぇっ?!」
「奇跡的に意識が戻ったんだ。これ、ホント奇跡だって。うちの母さん奇跡起こしたの。凄くない?…でも、一週間寝たきりだったから、いろいろリハビリ必要で休養のために退職したの。でも、今度は趣味で書いた小説が当たって印税生活。…うちの母さん持ってるわー」
そうなんだ…!
さすが、蓑島くんのお母さん。
奇跡起こす人のお母さんも、奇跡を起こせるんだ。
…だなんて、変に納得してしまった。
そんな話を自分の武勇伝のように語る、蓑島くん。
蓑島くん、お母さん大好きなんだ。
お母さん大好きな人って、マザコンだとか嫌なイメージあるけど。
でも、蓑島くんの場合は悪くないな。
純粋に素敵だな。
なんて、思えてしまった。



