寝言にしては、随分バイオレンスなことを言ってませんか。
冷凍庫の鹿肉で、人殺しか何か出来るんですか。
親子の変なやり取りに突っ込みたくなる。
「せづ、ごめんね。母さん眠いみたい」
「うん、寝かせてあげよう…?締め切りって、何の締め切り?」
「原稿の締め切り。母さん、作家なの」
「えぇっ?!さ、さ…作家?」
「うん。中高校生向けの恋愛小説やらエッセイやら書いてる。本も出してるよ。これ」
そう言って、パソコンの傍にある文庫本を私に手渡す。
「…あっ!これ、読んだことある!彩里から借りて…人気の本でしょ!」
「うひひ。二年前に仕事やめて専業主婦の傍ら趣味で書いてたら大当たりしちゃった」
「嘘っ!これ今度映画化されるしょ!」
「その映画の特別エピソードの締め切りが今朝だったんだって。…あ、みんなには言わないでね。こんな夢たっぷり青春小説をこんなおばさんが書いてると知れたら夢無くなっちゃうから。うひひ」
「そんなことないよ!…ビックリしたけど」
こんな凄い人が身近にいるとか、ただ驚きだ。
すると、ソファーの方からモゾモゾと音がする。
「…あ、起きた?」



